コラム

コロナがパリにもたらした自転車ブームで、「コンパクトなオリパラ」に説得力

2021年10月15日(金)20時05分

このような背景があり、2014年に当選したパリのアンヌ・イダルゴ市長は、徒歩や自転車で生活できる街を選挙公約に掲げていた。クルマをなかなか捨てられないパリだったが、コロナ禍を機に交通改革が一気に進んだ。

パリ市「15分都市」のイメージ Ville de Paris-YouTube

パリ在住の日本人いわく「パリ市内はクルマの速度が30km/hに制限され、クルマを使うよりも自転車やトロチネット(キックボード)の方が速いかもしれない。自転車の需要がさらに増えている。日曜日はシャンゼリゼ大通りが交通規制され、歩行者天国になっている」という。

kusuda211015_paris2.jpg

自転車シェアとコロナの影響で、通常駐車場の場所がテラス席になっている 筆者知人提供

自転車シェアリング「Vélib'(ヴェリブ)」はこれまで一般的な自転車のみだったが、電動の自転車も加わった。また、Uberも自転車やトロチネット(キックボード)の貸し出しに参入し、以前より選択肢が増えている。

またEVカーシェアリング「Autolib'(オートリブ)」は「Mobilib'(モビリブ)」に名称を変えたが、パリ市は徒歩や自転車の活用を推奨しているため、以前より目立った活用はされていないようだ。

kusuda211015_paris3.jpg

パリ市の自転車シェアリング「Vélib'(ヴェリブ)」。青色が新しく導入された電動の自転車 筆者知人提供

オリパラに向け、パリで進むさらなる計画

パリ市は、大会期間中の移動手段の20%以上を自転車で確保するという。

会場と地域を結ぶ「2024サイクリングループ(Le boucles cyclables)」、パリを横断する「エクスプレス自転車ネットワーク(Le Réseau express vélo)」などの整備を進めている。さらには「2020-2026自転車計画」をつくり、公共交通、自転車の利用を促進するため、地区ごとに歩行者と自転車を優先する通り(vélorue、自転車通り)やゾーン30をつくり、利用者が緑を楽しめるネットワークを計画している。セーヌ川の水質を改善させ、泳げるようにする計画まで立てている。

自転車をまちづくりに活用する動きはパリだけではなく、世界的な傾向だ。環境や交通問題の解決策としてクルマの中心市街地への侵入を制限し、日本同様に公共交通の老朽化やドライバー不足に頭を抱える都市にとって、道路空間の使い方を見直し、徒歩や自転車で暮らせて賑わいのある街を構築できれば、非常に合理的だからだ。日本と比較されやすいイギリス、ドイツ、アメリカでも同様の傾向にある。

日本では高齢者の免許返納問題、公共交通の維持やドライバー不足が大きな問題となっている。パリに倣うとすれば、日本でもまずは車いすを含む徒歩と自転車で暮らせる街の再構築を軸に据え、そこに公共交通の活用やクルマ移動を組み合わせる形を検討してみてはどうだろうか。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本のCEO
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月1日号(6月24日発売)は「世界が尊敬する日本のCEO」特集。不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者……その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インド、世界的金融企業がデリバティブ市場強化のため

ビジネス

首都圏マンション、5月発売戸数16.9%減 再び減

ワールド

石破首相、NATO首脳会議出席取りやめへ 岩屋外相

ワールド

外国企業復帰、ロシアの利益になるかどうか注視=検事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story