コラム

年末年始に注意したい空き巣被害と、犯人が侵入を諦める住宅の特徴

2022年12月07日(水)16時40分

komiya221207_2.jpg

プルーイット・アイゴー団地の爆破解体 出典:米国住宅都市開発省(パブリック・ドメイン)

高層住棟では、共用廊下を空中街路のイメージで建設することが一般的だった。しかし、そもそも、共用廊下の「見えやすさ」が地上街路のように確保されることはあり得ない。例えば、ニューヨーク市営住宅の統計では、高層になればなるほど廊下での犯罪発生率が高くなることが示されている。

したがって、高層住棟は、空中街路というよりもむしろオフィスビルのイメージで設計されるべきである。つまり高層住棟は、出入りしやすく、その中を自由に歩き回れる建物にするよりも、出入りしにくくして、街路のようには散歩できない建物にする方が望ましいのだ。

「入りにくさ」を高める工夫

共同住宅の「入りにくさ」については、まず、敷地の出入口を限定し、居住者に用事のない人が簡単に通り抜けできないようにする必要がある。

次に、共用玄関にオートロックシステムを導入するなどして物理的なバリアを設けたり、門柱やエントランス・アプローチのカラータイル舗装などによって心理的なバリアを張ったりすることが望まれる。

さらに、「入りにくさ」があいまいな屋外のオープンスペースや屋内の共用スペースは、分割によって「入りにくさ」を高める必要がある。例えば、歩道を画定し、それ以外の土地を専用庭や共同庭として特定の住棟に帰属させたり、1台のエレベーターや1本の廊下を共用する戸数を少なくしたりするのだ。

雨どいを伝って侵入されないように、コンクリート壁で雨どいを隠したり、雨どいに「忍び返し」を設置したりすることも、「入りにくさ」につながる。

共同住宅の「見えやすさ」については、まず、敷地内の歩道や共用階段を、自然な視線が注がれるように設計する必要がある。とりわけ、ペデストリアンデッキ(高架歩道)や避難階段は元々「見えにくい場所」なので、「見えやすさ」の向上に十分配慮することが望まれる。

次に、エレベーターホールや共用廊下についても、歩道や居室の窓から見通せるように配置することが望ましい。ニューヨーク市営住宅の統計でも、玄関先から見えないロビーでの犯罪発生率は、玄関先から見えるロビーの2倍であった。この点で、南側に共用廊下と居間を配置したリビングアクセス型の共同住宅は、「見えやすさ」を確保できている。

さらに、「見えやすさ」の確保が困難な屋上は、開放せずに避難場所としてのみ利用することが望まれる。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story