コラム

「自爆テロ型犯罪」を防ぐため、原因追究以外にすべきこと

2022年07月06日(水)21時00分

人は緊張したとき、動かしたくなくても手が震えたり、声が震えたりする。挙げた手が静止して見える場合でも微妙に震えている。身体的・精神的なストレスによる一過性の「ふるえ」は顔の皮膚にも現れる。そうした表情筋の微振動を解析して、その人の現在の緊張度を測定しようというのが、ディフェンダーXである。

このソフトウェアは、生理学的にはポリグラフ(俗称「うそ発見器」)や、離れていても心拍と呼吸を感知できるドップラーセンサー(電波センサー)の原理に近い。

また、ディフェンダーXは顔認証ソフトウェアと異なり、犯罪者や出所者の顔のデータベースを必要としない。あくまでも、「今ここ」での緊張状態を調べるにすぎないからだ。したがって、顔認証ソフトウェアのような人権侵害のおそれはない。

これを防犯カメラに搭載すれば、施設の近くで中の様子をうかがっている犯罪企図者や、凶器を隠し持って中に入ろうとする犯罪企図者を検知し、自動的に警察官や警備員に通報できる可能性がある。雑居ビルの店舗が自爆テロ型犯罪のターゲットになる場合には、各店舗が導入しなくても、ビルの入り口に1台導入するだけで犯罪企図者を早期発見できるだろう。なぜなら、犯罪企図者は雑居ビルに入る段階でかなり緊張しているからだ。

自爆テロ型犯罪を防ぐには、防犯ブザーなどのマンツーマン・ディフェンスでは無理がある。犯人を近づけない多層防御こそ安全で確実な対策だ。個人に頼るマンツーマン・ディフェンスから場所で守るゾーン・ディフェンスへのパラダイムシフトが求められている。

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プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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