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日本特有の「不審者」対策がもたらした負の影響
行き過ぎた警戒が人間不信を増幅させ、結果的に犯罪を助長することに(写真はイメージです) yamasan-iStock
<サングラス、マスク、黒い帽子──不審者を連想させる定番の外見的特徴だが、実際の犯罪者はほとんどの場合、そんな格好をしていない>
日本では、子どもの安全や地域防犯を話し合うため人々が集まれば、必ずと言っていいほど、「不審者」という言葉が登場する。しかし、海外では、この「不審者」という用語が使われることはまずない。私が実施した100カ国の現地調査を踏まえて、そう断言できる。それはなぜなのか。
「不審者」という言葉がまかり通っているのは、日本の防犯対策が、「犯罪機会論」ではなく、「犯罪原因論」に支配されているからだ。
犯罪原因論は、読んで字のごとく、犯罪の原因を明らかにしようとするアプローチだが、犯罪の原因は犯罪者の動機にあるとされるので、犯罪の動機を生む「性格や境遇」を重視することになる。「なぜあの人が?」というアプローチだ。
これに対し、海外では、犯罪機会論が防犯対策を担っている。
犯罪機会論は、犯罪の機会(チャンス)を明らかにしようとするアプローチだが、犯罪の機会、つまり犯罪が成功しそうな雰囲気を作り出すのは時空間なので、犯行現場になりやすい「場所の景色」を重視することになる。「なぜここで?」というアプローチだ。
防犯対策を規定する犯罪原因論
犯罪者は、犯罪を計画しても、犯罪が成功しそうな場合にのみ犯行に及ぶ。前科百犯の大泥棒も、目にした物を片っ端から盗むわけではなく、盗みが成功しそうなときに触手を伸ばす。凶悪な連続殺人鬼も、出会った人を次から次へと殺すわけではなく、殺人が成功しそうなときに接触を図る。
このように、犯罪機会論は、犯罪の動機を抱えた人が犯罪の機会に出会ったときに初めて犯罪は起こると考える。動機があっても、犯行のコストやリスクが高くリターンが低ければ、犯罪は実行されないと考えるわけだ。それはまるで、体にたまった静電気(動機)が、金属(機会)に近づくと、火花放電(犯罪)が起こるようなものである。
しかし日本では、「場所」に注目する犯罪機会論は普及していない。そのため、「人」に注目する犯罪原因論が防犯対策を支配し続けている。ところが、「防犯」では犯罪はまだ起きていないので「犯罪者」という言葉が使えない。そこで、「不審者」という言葉で煙に巻くしかなかった。その結果、有効性と有害性の両面で大きな問題が生じている。
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