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日本特有の「不審者」対策がもたらした負の影響
まず、「不審者」という言葉を使っている限り、防犯効果は期待できない。
子どもたちは、「不審者に気をつけろ」と教わっているが、不審者像を学校で聞いてみると、「くろいぼうしをかぶって、マスクをつけていて、くろいズボンや服を着ている人」(小5男児)、「黒いふくそう。サングラス。マスク。黒いぼうし。ひそひそと、あやしく歩いている人」(小6女児)などという答えが返ってきた。どうやら、児童が考える不審者の三種の神器は、サングラス、マスク、黒い帽子のようだ。しかし、そうした姿の誘拐犯人は聞いたことがない。
かつて鎌倉市のウェブサイトには、「不審者に注意!」という見出しで、「帽子を真深にかぶったり、サングラスをかけたり、大きなマスクをしているなど、また、異様に俯いて歩いてるなどの場合は注意が必要です。ただし、風邪や花粉症でマスクやサングラスをしていたり、ファッションとして帽子やサングラスを着用することはありますので、十分注意してください」という記述があった。しかし、これでは、サングラスやマスクをしている人に注意するのかしないのか、さっぱり分からない。
警察庁が発表した「子どもを対象とする略取誘拐事案の発生状況の概要」(2003年)によると、「だまし」を用いた誘拐事件は、全体の55%だった。この調査の対象者には、中学生と高校生も含まれているので、小学生以下に限って推計すれば、被害児童の8割程度が、だまされて自分からついていったことになる。確かに、東京・埼玉連続児童殺人事件(宮崎勤事件)も、神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)も、奈良女児誘拐殺害事件も、だまして連れ去ったケースだ。
また、16歳以上の大人を対象に、法務省が行った「犯罪被害の実態調査」(2019年)では、性的事件の届出率は14%であった。つまり、警察が把握した事件の7倍の性被害が実際には発生していたのである。したがって、子どもに限って推計すれば、警察が把握している性犯罪は、全体の1割にも満たないと言わざるを得ない。
本当の不審者は、目立たない
なぜ、だまされるケースが多発するのか。それは、「不審者に気をつけろ」「知らない人にはついていくな」と、子どもを「人」に注目させているからである。
本当の不審者は、防犯チラシに登場する不審者のように、マスクをしたりサングラスをかけたりはしない。むしろ普通の大人を装い、目立たないように振る舞う。
また子どもの世界では、知らない人と道端で二言三言、言葉を交わすだけで知っている人になってしまう。ましてや、数日前に公園で見かけた人は、すでに知っている人である。
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