コラム

SNSを駆使する「140字の戦争」 ニュースを制するのは誰か

2019年08月02日(金)19時00分

周囲の爆撃の状況を伝えたベイカーさんのツイートに多くの海外メディアも注目し、「今夜、私は死んじゃうかもしれない」というツイートは1万5547回のリツイートがあった。一連のツイートはガザ市民に対する同情を引き出しただけでなく、「イスラエルの軍事行動に対して、国際社会の激しい怒りを掻き立てた」と、パトリカラコス氏は言う。

武力ではイスラエルに勝ち目がないパレスチナは「ナラティブ戦でしかイスラエルに対抗できない」とパトリカラコス氏は分析する。

イスラエル側も対抗

一方のイスラエル側も、ナラティブのレベルで勝つ必要がある。イスラエルの武力行使に正当性を与えられるのは、「物語のレベルしかないから」だ。

戦争時のナラティブ戦では、交戦地帯の「生のデータ(たとえ真実味を欠くデータであっても)を戦場から拾い出して、情報戦に投入する」。

国際社会は「このデータを処理して、その戦争に対する態度を決める」。大衆レベルと、政治レベルにおいて「どこを非難し、支持するのか」が決まってゆく。

イスラエル国防軍英語版のソーシャルメディアプラットフォーム編集長ダニエル・ルーベンスタイン氏は、ツイッターをソーシャルメディアの中でも最重要視する。フェイスブックでもコンテンツを急速に拡散できるが、「友達」中心にしか届かない。しかし、ツイッターならイスラエル側の見解を理解してくれそうなたくさんの「浮動票」にも情報を届けられる。

世論を味方につけるためにはいくつかのテーマを設定し、情報のビジュアル化に力を入れる。グラフィックや動画を多用し、「コンテンツそのものがメッセージを語る」ようにする。

場合によってはジャーナリストにショートメールを使って情報を出すこともある。「ショートメールを使えば、記者が必ず読む」し、内容をツイートすることが多いからだ。これが「第3者による増幅」となり、発信するコンテンツの正当性が増すのである。

「最後は、誰も信じなくなる」

第6章にはロシアの「トロール(荒らし)工場」(フェイクニュースの拡散拠点)の1つで働いていたヴィターリ・ベスパロフ氏が登場する。

彼の仕事は、ロシア語を話すウクライナ住民を対象にしたウェブサイトで、親欧米のウクライナ政府軍を批判することだった。ウクライナ軍がある地域を制圧したと聞けば、「それは嘘だ」と書いた。他のスタッフは「ウクライナ人のブロガー」になりすまし、首都キエフの幼稚園に十分な食料がないなど、ウクライナが悲惨な状況にあることを強調する記事を執筆した。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:注目浴びる米地区連銀総裁の再任手続き、ト

ワールド

焦点:ノルウェー政府系基金、防衛企業の投資解禁か 

ビジネス

三菱UFJが通期上方修正、資金利益や手数料収入増加

ビジネス

JPモルガン、ドバイ拠点強化 中東の中堅企業取り込
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story