コラム

ウィキリークス創設者アサンジは「真実の追求者」か「目立ちたがり屋」か

2019年04月15日(月)15時00分

アサンジが逮捕された日、米司法省は連邦大陪審が昨年3月、アサンジ容疑者を連邦地裁(バージニア州)に起訴していたことを明らかにした。機密文書を入手するため、マニング氏と共謀し、コンピューターネットワークに侵入した罪に問われている。

英政府は米政府の求めに応じて身柄を引き渡す可能性があり、もし有罪となれば、最長で禁錮5年の刑が下される。

イギリスでは最大野党労働党のジェレミー・コービン党首が「アサンジを米国に引き渡すな」と声を上げた。ガーディアン紙は社説で、スウェーデンの性的暴行事件の捜査は再開されるべきで、アサンジはこれに対処するべきだが、米国への身柄引き渡しには反対している。

「これはジャーナリズムではない」

一方、ワシントン・ポスト紙の社説は、アサンジを「報道の自由の英雄ではない」とする。それは彼が情報を「非倫理的な手法で」取得し、検証もせずに公開したために「本当のジャーナリストではない」からだ。また、同紙は身柄引き渡しを支持している。ロシア当局が「西側の民主主義妨害にどれほどの力を傾けていたのか」について、アサンジが解明する鍵を持っているからだという。

ジャーナリズムの面に注目すれば、記者が機密情報を受け取ることは珍しくなく、もし機密情報の記事化を違法としてしまえば、言論の自由と抵触してしまい、記者の仕事が不可能になる。米国には言論の自由を保障する憲法修正第1条があるため、機密情報の取得やこれの記事化ではなく、「共謀して、コンピューターネットワークに侵入した」ことが違法とされているようだ。

2017年秋以降の「#MeToo」運動の高まりもあって、スウェーデンでの性的暴行疑惑の捜査に協力するため、アサンジはスウェーデンに身柄を引き渡されるべきという声が英政界で強くなっている。この事件こそが、エクアドル大使館での籠城の直接の原因であった。

筆者自身、アサンジは性的暴行問題、ロシアとの関係という2つの点において、真実を明らかにする責務があると思う。

しかし、「報道の自由の戦士」か、あるいは「目立ちたがり屋」なだけなのか、そのどちらの場合でも、英政府が、米国の機密文書を公開するプラットフォームを提供し、米政府にとって都合が悪い情報を公開した人物であるアサンジの身柄を米国に引き渡してしまえば、言論・報道の自由を侵害する「危険な先例」(アサンジの弁護士ジェニファー・ロビンソン談)になり得る。アサンジ個人をどう評価するかという問題を超えて、広い意味の報道の自由、つまり私たちみんなの問題なのだ。この点を見逃してはならないだろう。

身柄移送に関する審理は、5月2日に行われる予定だ。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、イラン戦争の目標達成に近づく=トランプ氏

ワールド

イラク、外国企業運営の油田で不可抗力宣言 ホルムズ

ワールド

英、米軍による基地使用承認 ホルムズ海峡攻撃巡り 

ビジネス

米国株式市場=大幅続落、中東緊迫の長期化がインフレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 9
    将来のアルツハイマー病を予言する「4種の先行疾患」…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story