ネタニヤフの「ガザ完全支配」計画は荒唐無稽...失敗に終わると断言できる「5つの理由」
An Ill-Advised Plan

ガザ地区はイスラエルにより封鎖され食料や燃料、医薬品などが枯渇。北部は激しい空爆にさらされている。(8月7日) AP/AFLO
<稚拙な戦略立案と、現実も国際社会の非難も無視する占領構想で、戦争は終わりなき混迷に──>
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はパレスチナ自治区ガザの完全占領を目指し、現地で飢餓の危機が深刻化して国際社会からの非難が高まるなか、戦争行動を拡大している。
8月8日には新たな軍事作戦計画が閣議で承認され、併せて「戦争終結の5原則」も発表された。これにはイスラム組織ハマスの武装解除、全ての人質の解放、ガザの非武装化、イスラエルによるガザの治安管理などが含まれる。
戦争は次の段階に進むことになるが、ネタニヤフが十分な根拠や明確な将来の計画なしに貧弱な戦略立案を急ぐパターンは変わらない。ガザ最大都市ガザ市の完全掌握という新たな目標を考えると、戦争の終結は近いとも現実的とも思えない。
ネタニヤフの計画の妥当性には5つの疑問がある。
①軍事的に必要か
イスラエル軍のエイアル・ザミール参謀総長は当初、ガザを占領する計画は「イスラエルをブラックホールに引きずり込む」と警告し、軍事作戦の拡大に否定的だった。
In a tense meeting, Eyal Zamir warned the prime minister that taking the rest of Gaza could trap the military and lead to harm for the remaining hostages. https://t.co/SRGYmhXwL5
— HuffPost (@HuffPost) August 6, 2025
ハマスは軍事勢力として大幅に弱体化し、主要な幹部は殺害された。ガザではもはや組織的な勢力ではなくなり、ゲリラ戦術を取っている。
こうした状況で、ガザ市のような都市環境で作戦を拡大することはリスクが高い。ハマスは広範な地下トンネル網を利用して奇襲に出たり、建物にブービートラップ(偽装爆弾)を仕掛けたりできる。
従って、ネタニヤフの計画がイスラエル軍の犠牲者を増やすことは避けられない。戦争開始以来、イスラエル軍側の死者は900人近くに達している。ガザ市の完全掌握には数カ月かかり、その間に数え切れないパレスチナ市民が犠牲になるだろう。
また、約20人が生存しているとみられる人質の命を危険にさらしかねないとも、ザミールは警告する。これまでイスラエル人人質の解放は大半が停戦中に行われ、軍事行動の成果ではなかった。
昨秋にはイスラエル軍部隊の接近を察知したハマスが6人の人質を殺害した。追い詰められれば、再び同じことが起きても不思議ではない。
②作戦を遂行できるだけの兵力があるのか
イスラエル軍は比較的小規模で、正規の兵士は約16万9000人。補強が必要になれば約46万人いる予備役兵から招集する。
ただし、職業を持つ予備役兵を長期間、動員することは経済に悪影響を及ぼし、長期的にイスラエルの利益を損なうことになる。
ガザからハマスを排除するというネタニヤフの目標は、「掃討・確保・構築」の基本戦略を取る。まず、イスラエル軍がハマスの戦闘員を掃討する。
続いて、十分な兵力を投入して地域の支配を確保し、ハマスの帰還を防ぐ。最後に、トンネルの破壊や文民統治の復活の促進など、ハマスが機能しない環境を構築する。
しかしイスラエルには、この戦略をガザ全域で展開するだけの十分な兵力がない。さらに、ユダヤ人入植者とパレスチナ住民の衝突が激化しているヨルダン川西岸地区にも、兵力を配備する必要がある。
ガザを恒久的に占領するつもりはないとネタニヤフは述べているが、極右閣僚の意向は違う。ガザにイスラエルの入植地を再建し西岸を併合したいと、彼らは公言している。
政権が発信するメッセージが錯綜しているため、ネタニヤフがガザに関してどんな長期的計画を構想しているのか、そもそも計画があるか否かを見極めるのは非常に難しい。
③「アラブの軍隊」がガザを統治?
8月7日、ネタニヤフは米FOXニュースのインタビューで、将来的にガザの治安管理は「アラブの軍隊」に委ねたいと語った。だがそんな軍に人員を割く国家が、アラブに存在するだろうか。
アラブ諸国は長年、「パレスチナ問題をイスラエルの代わりに解決するつもりはない」「パレスチナ人が反対するような取り決めは認めない」という立場を取ってきた。つまりハマスには否定的でも、イスラエルの「汚れ仕事」を肩代わりする気はない。
ハマスの幹部オサマ・ハムダンは、ガザ統治を目的に組織される軍隊は全て「占領軍」と見なすと警告。イスラエルに代わってガザの治安維持に当たる人員は、皆ハマスの標的になるということだ。
④民間人はどうなるのか
7月7日、イスラエル・カッツ国防相はガザ南部に「人道都市」を建設し、200万を超えるガザの全住民を移住させる計画を発表した。イスラエルのエフド・オルメルト元首相はこれを「強制収容所」と批判した。
計画を実行すれば、ガザの人道危機は悪化する。イスラエルは国際社会で、今以上に強い非難を浴びるだろう。
3月24日には治安閣議が、ガザの住民を第三国に「自主的に移住」させる計画を承認。これも民族浄化だとして非難された。アラブ連盟に、200万人超もの難民を引き受ける国はないだろう。
⑤ネタニヤフはイスラエルのさらなる孤立を受け入れる覚悟なのか
8月8日、中東が専門の政治学者アミン・サイカルはニュースサイト、ザ・カンバセーションに寄稿。イスラエルの信用はアメリカを含む全世界で失墜していると指摘した。
国外に出れば危険な目に遭う恐れがあることに、イスラエル人は気付きつつある。7月にはベルギーで2人のイスラエル兵が、音楽フェスティバルで所属部隊の旗を振ったとして拘束された。
ネタニヤフが軍事作戦の拡大方針を打ち出すと、国際社会は即座に反応。ドイツはイスラエルへの武器輸出を停止すると発表した。ドイツはイスラエルにとって、アメリカに次ぐ第2位の武器供給国だ。
国際社会の批判と同盟国の間で進むパレスチナ国家承認の動きに対し、ネタニヤフは「反ユダヤ主義をあおり、ハマスを利する」と反発する。
もっともネタニヤフは状況に応じて戦略を変えているようだ。ネタニヤフも閣僚も、取りあえず戦争が終わるまで非難の嵐をやり過ごし、それから関係の修復を図ればいいと考えているのだろう。
だが究極の問題がある。すなわち、「いつになったら戦争は終わるのか」だ。
Ian Parmeter, Research Scholar, Middle East Studies, Australian National University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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