コラム

「国会議員の特権」問題:文通費改め調査研究広報滞在費の意味不明

2022年04月25日(月)20時05分

なぜ民間と同じ「領収書精算」方式にできない?

このコラムではこれまで3回に渡って、(1)1947年(昭和22年)に制定された文通費(当時は通信費)の成立過程や、(2)GHQのジャスティン・ウイリアムズが1946年(昭和21年)9月3日に起草した「新憲法下の議会の諸問題」で郵便料金の無料特権付与を初めて勧告したこと、それに対して、(3)日本側は公の性質を持つかどうかを確認する手間という弊害を回避するために郵送・通信の「手当を支給する」という換骨奪胎を行っただけでなく、その都度精算の手間を省くべく定額を「渡し切り」として一律事前支給する修正を加えた事情を説明してきた。

その上で、せっかくGHQによる特権付与の勧告を否定したにも関わらず、その後、物価上昇等の理由にかこつけて支給額が膨れ上がるとともに、渡し切りのままノーチェックという制度的不備のおかげで特権的な「第二の給与」と化していることを批判し、本来的な「実費の弁償」という趣旨に立ち返るべきであると論じた。

そのような観点からは、領収書公開等によって透明性を担保した経費処理制度と外部的監査制度の導入こそが本質的に重要だ。経費の精算に「日割り」も「月割り」もない。「渡し切り」を維持しようとするから、その支給を「日割り」にするか、残った分を国庫に返還するかどうかという話になるのであり、端的に民間では当たり前の経費精算制度を導入すれば良い。国会議員の職務遂行に必要な費用のうち、国民に「情報を伝達」し、国民が得られた「情報を基に判断」することに資するような行為に限って、個別的に事後精算を認める制度を導入するべきであろう。

4月21日に開かれた与野党協議会では、積み残された課題の結論を今国会中に得るとして、まずは支出として許されない項目一覧(ネガティブリスト)を作成するとしている。しかし、そのような処理の仕方で果たして、昨年来噴出している国民の不信を払拭できるだろうか。また時間的に、6月15日閉会予定の今国会中に更なる法改正が間に合うだろうか。

ところで、GHQは郵便料金無料の「特権」を「Franking privileges」と称していたが、国会法・歳費法における(旧)文書通信交通滞在費については「allowances」(手当)と訳されることが多い。例えば参議院の公式サイト(英語版)は(旧)国会法38条を、

"Article 38.
Members shall receive allowances, as provided for separately, for mailing official documents and for communications of official nature during a session."

と英訳している。

「allowance」は、その限度額内での使用が許容される定額給付という意味合いが強く、例えば給与所得者に支給されることの多い「住宅手当」は「housing allowance」というのが通例だ。これに対して「経費」は、所得税法37条の「必要経費」が「Necessary Expenses」と訳出(日本法令外国語訳データベースシステム)されているように、expenses あるいは単にcostsと表記されることが多い。

果たして今回の「調査研究広報滞在費」は英語でどのように訳されることになるだろうか。それはこの公金支出の性格を物語るものになるであろう。

なお、GHQによる勧告の詳細については、国立国会図書館所蔵マイクロフィルムに基づく調査結果を「国会法38条「通信費」の制定過程におけるGHQ 勧告案と衆議院提出法案の異同について」(研究ノート)として、社会情報大学院大学(4月から社会構想大学院大学に名称変更)の紀要『社会情報研究』第3巻2号に投稿したので、興味ある方はご覧頂きたい。

また、上記研究ノートの脱稿後になるが、国立国会図書館の濱野雄太氏による「文書通信交通滞在費の創設及び改正経過」(調査と情報―ISSUE BRIEF― No. 1175、2022. 2.25)という論文を目にした。主に国会法起草後のプロセスが丹念にまとめられた優れた研究成果であり、ぜひ参照して頂きたい(特に創設当初の通信費がなぜ「250円」(実際には減額修正されて125円)になったのかという点についての示唆は重要である)。

ニューズウィーク日本版 トランプのイラン攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月10号(3月3日発売)は「トランプのイラン攻撃」特集。核・ミサイル開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。アメリカとイランの全面戦争は始まるのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国政協開幕、軍トップ張氏ら政治局員2人が姿見せず

ビジネス

スイス中銀、為替介入意欲が高まる=副総裁

ビジネス

英2月サービスPMI改定値は53.9、回復続くも雇

ワールド

ハメネイ師の息子モジタバ師が生存、後継候補=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story