コラム

衆院選の勝敗と菅首相の去就を左右する秋の政局「3つのシナリオ」

2021年08月20日(金)11時27分

「仕事師内閣」だったはずなのに

昨年夏の突然の安倍首相退陣を受けて発足した菅政権は、「仕事師内閣」としてデジタル庁創設や携帯電話料金引き下げなどの政策を断行し、コロナ禍に打ち勝った象徴として五輪を成功させ、総選挙に勝利する戦略をとってきたとされる。しかし、ワクチン接種の進展によるコロナ禍の沈静化と五輪の盛り上がりは期待通りに行かなかった。

確かにワクチンを2回打った「接種率」は全国民の39.3%で、一つの目安とされた「4割」に到達しつつあり、65歳以上の高齢者に限ると85.1%に達している(いずれも内閣官房8月19日公表値)。しかし、「デルタ株」など、これまでより感染力が高く、ワクチンの効果を低下させる効果があると言われている「変異株」の感染が爆発しており、連日のように感染確認者数が過去最大を更新したというニュースが流れている。新型コロナの沈静化にはほど遠いのが実情だ。軽症者を原則的に自宅療養に切り替える療養方針の転換も大きな批判を浴びた。

五輪では、日本代表選手の活躍が国民を沸かせた。開会式の世帯平均視聴率は56.4%、閉会式で46.7%(いずれも関東地区のビデオリサーチ調査結果)に達したが、政権支持率の向上にはつながっていない。コロナ禍での無観客開催や大会関係人事や演出の混乱に対する失望、スポーツの政治利用に対する冷ややかな視線もあろう。開会式では、天皇陛下の開会宣言が始まっているにも関わらず首相が起立しておらず、小池百合子東京都知事に促されるような形で立ち上がる姿も映し出された。長すぎるバッハIOC会長のスピーチの後で「予定されていたアナウンスが流れなかった」として組織委員会が後日謝罪したが、このアクシデントを含めて開会式をリアルタイムで視聴していた人数は、全国で実に約7000万人を超えると推計されている。

菅首相はその後、「抗体カクテル療法」を実施している品川プリンスホテル内療養施設を視察し、広報的な観点からのイメージ挽回策を積極的に取ろうとしているように思える。しかし他方で、広島の平和記念式典での原稿読み飛ばし、長崎での遅刻に加えて、17日の記者会見では「感染拡大を最優先」と言い間違えるなど、体調を不安視させる事例も頻発するようになってきた。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、柔軟な政策対応の局面 米関

ビジネス

3月完全失業率は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ビジネス

トランプ氏一族企業のステーブルコイン、アブダビMG

ワールド

EU、対米貿易関係改善へ500億ユーロの輸入増も─
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story