コラム

ジェンダー平等という黒船に気付かず日本政治は「ムラ」に閉じこもる

2021年04月06日(火)19時35分

3月26日、森喜朗元首相が知人秘書について「女性と言うにはあまりにもお年だ」と発言したと報じられ、批判が殺到した。森元首相は2月にも「女性がいると会議に時間がかかる」と発言、女性蔑視または女性差別だと内外の批判を浴びて五輪組織委員会会長を辞任したばかりだ。

問題の発言があったのは、河村建夫衆議院議員の政治資金パーティー。ゲストとして招かれた森元首相が壇上で挨拶をした際に、知人秘書を紹介する中で飛び出した。

件の知人秘書は永田町・自民党界隈では知らない人が居ないほどの大物秘書である。彼女に「女性と言うには年をとっている」と言及できるのは森氏ぐらいだろうが、だからといって、宴席での「軽口」として許される話では終わらなかった。それは、ことさらに「女性」と「年齢」を結びつけて揶揄するものとして発言が理解されたからである。さらには「女性蔑視」というだけではなく、近年注目を集めている「エイジズム」(年齢をことさらに揶揄すること。特に高齢者に対する偏見や固定観念をいう)という観点からも批判を浴びた。

前回の発言とも共通するのが、「身内でのここだけ話」が「外部」に伝わり、猛烈に批判されるという構図だ。「身内」つまりインナーなサークル(メンバーの大半が男性)で語られてきた話が伝わり、「世間の常識」との乖離に多くの人が驚くというパターンだ。JOC(日本オリンピック委員会)という「ムラ」、永田町という「ムラ」でのみ通用するような話がメディアによって報じられ、社会が呆れ返るという構図が繰り返された。

「イジる」内容の「軽口」が炎上

永田町で「ムラ」と言えば、狭義には自民党の「派閥」を指す。森元首相の出身母体である細田派(清和研)、河村議員が会長代行を務める二階派(帥水会)、竹下派(平成研)、麻生派(為公会)、岸田派(宏池会)などだ。これらの派閥(ムラ)が集合して自民党という大きな「ムラ」を運営している。

自民党の派閥は、基本的にはその領袖を総理総裁にするべく結成される政策集団であるが、同時に、自民党議員同士でしのぎを削っていた中選挙区時代に選挙支援・ポスト割当・利権調整などの機能を果たして発達したものだ。功罪あろうが、いずれにしても派閥というムラの存在と機能は、無派閥で首相に登りつめた菅政権下でもおおよそ変わらない。

そのムラが開催する、年に一度の派閥パーティーが大きな「祭り」だとするならば、派閥幹部クラスの議員による個別的パーティーは次に重要な「祭り」だ。多くの支援者が駆けつけ、壇上にあがる来賓のスピーチは祝意に満ち、晴れがましい雰囲気になるのが普通だ(例外もある)。

今回は、3月21日に行われた山口県萩市の市長選挙で、河村建夫議員の実弟である田中文夫氏が、衆院選山口3区への鞍替えを狙うライバル・林芳正参議院議員(岸田派)が押す現職の藤道健二氏を500票差で破ったばかり。一層の祝賀ムードが森元首相の警戒心を緩めたのだろうか。ムラ的な祝祭空間の中で、政界きっての人格者として慕われる河村議員の事務所を「イジる」内容の「軽口」が飛び出した形だが、冗談では終わらず炎上した。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米特使、ウ・欧州高官と会談 紛争終結へ次のステップ

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件

ワールド

中国、来年は積極的なマクロ政策推進 習氏表明 25

ワールド

ロ、大統領公邸「攻撃」の映像公開 ウクライナのねつ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story