最新記事

台湾

男たちの女性差別がでっち上げた蔡英文の学歴詐称疑惑

Fake Doctorate or Fake News

2019年9月20日(金)17時30分
ニック・アスピンウォール

野党だけでなく与党・民進党内部からも攻撃された蔡(写真は7月の訪米時) JEENAH MOON-REUTERS

<証拠示しても蔡総統の学歴疑惑騒動は収まらず――背景には対立候補の支持勢力と女性蔑視が>

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が1984年に英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で博士号を取得したというのは嘘だ──そんな主張を(証拠を示すことなく)繰り返す2人の大学教授を、ついに蔡総統自身が名誉毀損で訴えた。

既にLSEは蔡の博士論文のコピーを、彼女の弁護団は博士号の信憑性を証す別の書面を法廷に提出している。

再選を控えた国の指導者が、自身の経歴に関する(少なくとも現時点では)根も葉もない疑惑に悩まされる。「おまえの出生証明書は偽造だ」と言われ、忍耐強く反論し続けなければならなかったアメリカの前大統領バラク・オバマのケースとよく似ている。

蔡も先月末、誹謗中傷には法的手段で対抗すると語り、学歴詐称という主張は「行き過ぎたデマ」であり「フェイクニュース」だと述べていた。

ちなみに彼女は問題の教授らを、社会秩序維持法違反ではなく名誉毀損で訴えている。前者であれば、公共の秩序を乱す有害な言動をした個人に刑事罰を科すことができる。また蔡政権与党の民主進歩党(民進党)は、外国の勢力による選挙介入に対しても同法を適用すべきだと主張している。

訴えられたのは、国立台湾大学の賀徳芬(ホー・トーフン)名誉教授と、米ノースカロライナ大学シャーロット校の林環牆(リン・ホアンチアン)准教授だ。賀は今年8月、林の独自調査で蔡が博士号を取得していないことが判明したとして、蔡の経歴詐称を告発した。ただし「調査」の内容は明らかにしていない。

これを受けて総統府は、蔡が台湾に戻ってから在籍した国立政治大学の保管している博士論文のコピーや、LSEから送られた証明書などを証拠として公表した。

真の敵は男の長老たち

それでも騒ぎは収まらず、今月に入ってからは国立台湾大学のある准教授が、蔡に博士論文の公開を求める事態となった。公表できないのは出来が悪く、合格レベルに達していないためだろうというわけだ。

実を言えば、蔡は野党・国民党だけでなく、先の民進党予備選で彼女に敗れた頼清徳(ライ・チントー)前行政院長の支持派からも攻撃を受けている。しかも露骨に性差別的な攻撃だ。例えば熱烈な頼清徳派とされる党重鎮の辜寛敏(クー・クワンミン)は蔡に、総統職を頼に譲って「国母」になればいいと呼び掛けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中