コラム

3選挙で野党全勝――が菅政権にとって衝撃でない理由

2021年04月26日(月)12時25分

衆参補選・再選挙敗北でダメージを受けたのは菅首相(左)でなく岸田氏?(昨年9月の自民党総裁選)Kim Kyung-Hoon/Pool-REUTERS

<4月25日投開票の広島・長野・北海道の衆参3選挙で野党系候補が全勝した。不戦敗も含めて与党側が全敗するという結果に衝撃が走っているが、実は菅政権へのダメージはほとんどない>

4月25日に投開票が行われた広島・長野・北海道の衆参3選挙で野党系候補が全勝した。菅政権発足後初めてとなる国政選挙で、不戦敗も含めて与党側が全敗するという結果に衝撃が走っているが、菅首相の解散・総選挙戦略にどのような影響を与えるだろうか。

今回の選挙で最も注目されていたのが参議院広島選挙区再選挙だ。公職選挙法違反で有罪が確定した河井案里元参院議員の当選無効に伴う再選挙で、各社の出口調査によると、最大の争点となったのは「政治とカネ」。2019年の参議院選挙で河井克行元法相が妻と共に、地元政界の県議や首長ら100人に現金2901万円を渡したとして起訴された事件の公判が続く中での選挙となった。

自民党が公認、公明党が推薦した元経産省課長補佐の西田英範候補は、景気対策、コロナ感染対策と並んで、河井案里氏を念頭に置いた「当選無効に伴う歳費返還」などの再発防止策と政治の信頼回復を訴えた。

しかし、2月に発覚した総務省接待事件以来、官僚出身者に厳しい目が向けられるというタイミングの悪さもあったのだろうか、無党派層への浸透は2割足らずに終わり、立憲、国民、社民が推薦した地元アナウンサー出身の宮口治子氏に約3万4000票差をつけられて敗北した。宮口氏は無党派層の7割を押さえた上に、金権体質に批判的な自民党支持層の3割と公明党支持層の2割も取り組んだのが勝因となった。

衆議院北海道2区では、同じ「政治とカネ」で在宅起訴された吉川貴盛元農林水産相の議員辞職に伴い補選が行われ、自民党は候補擁立を見送り不戦敗となった。菅首相や山口泰明選対委員長の盟友として知られる吉川氏だけに、あえての不戦敗戦術が取られたとも思われるが、立憲民主党の元職、松木謙公氏が国民民主党、社民党、共産党(道委員会)の推薦を得て、危なげなく当選を果たした。

「言うは易し、行うは難し」の野党共闘だが

参議院長野選挙区では、コロナで急死した羽田雄一郎元国交相の弔い合戦となる補選に、実弟の羽田次郎氏が出馬し、自民党が擁立した元衆議院議員の小松裕氏に約9万票差で勝利した。立憲民主党が擁立した羽田候補の推薦を巡っては、共産党と交わした政策協定に原発ゼロや日米同盟見直しが含まれていたことから国民民主党の玉木雄一郎代表らが一度は反発。結局は推薦することになったが、「野党共闘」の温度差が浮き彫りにもなった。

共産党と連合との間の足並みの乱れは広島でも問題となり、「言うは易し、行うは難し」という野党共闘の構造的問題点が改めて浮き彫りになった。ただし、出口調査によると、広島・長野・北海道の衆参3選挙ではいずれも野党共闘候補が野党支持層から幅広い支持を集めている。一定の限度はあるものの、野党共闘が実際に機能したと言えることは確かだろう。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米PPI、1月は前月比0.5%上昇 伸びは予想上回

ビジネス

ニデック、不正会計疑惑巡る第三者委の調査報告書受領

ワールド

パキスタンとアフガニスタンの衝突再燃、周辺国や中ロ

ワールド

パキスタンとアフガニスタンの衝突再燃、周辺国や中ロ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石が発見される...ほかの恐竜にない「特徴」とは
  • 4
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 9
    トランプがイランを攻撃する日
  • 10
    習近平による軍部粛清は「自傷行為」...最高幹部解任…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 8
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 9
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story