コラム

英政治の「転換」をもたらしたクレッグ元副首相...複数政党制に移行する祖国に語った「教訓」

2025年05月22日(木)18時44分

「権力のない政治は燃料のない車のようなもの」

「権力のない政治は燃料のない車のようなものだ」と再び自由民主党の連立政権入りを熱望するクレッグ氏は環境の劇的な変化に言及する。当時はストリーミングサービスのNetflix(ネットフリックス)はDVDを郵送してくる会社で、SNSのTikTokは存在すらしていなかった。

世界金融危機とトランプ氏の貿易戦争という違いもあるにせよ、二大政党制を前提とした政治システムにおける多党制政治への有権者の渇望がある。政策立案における3つの教訓として民間主導の成長の重要性、柔軟な財政規律、「物語」の力をクレッグ氏は挙げる。

現在、英国は「米国の衛星国家」と「欧州の一員」の間を彷徨う。成長は政府の命令で生まれるものではなく、民間の信頼と投資から生まれてくる。目標を定めつつも経済状況に応じた柔軟な財政政策が必要だ。政治は物語で動く。「なぜ・どこへ向かうのか」を語るべきだという。

長期的にはEUに戻ることが望ましい

長期的にはEUに戻ることが望ましいと明言する親欧州派のクレッグ氏は経験不足の政治家が増えていることを懸念する。大学から政党職員、下院議員というキャリアパスが英国では主流になり、政治で生計を立てる議員が増え、政策決断で保身が優先されやすい弊害に陥っている。

政治の世界に入る前に民間や公共分野で経験を積むことが望ましい。予測不能な不確実性の時代、経験不足の政治はすでに限界に達しており、国家運営の専門性を高める時代が到来しているとクレッグ氏は強調した。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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