コラム

「裏の動機があるはずと詮索する人も...」ウクライナ戦闘地域の目前の村に、支援活動を続ける女性

2023年07月07日(金)18時21分
ウクライナで支援活動を行う女性

ザポリージャ州の村に物資を届けるオルガさん(5月、筆者撮影)

<砲撃の音がうるさすぎて取材クルーが収録できないほど前線に近い村にも支援物資を届け続けるウクライナ女性に密着取材>

ウクライナに車いす1000台を届けるプロジェクトに合わせ、筆者は5月と6月の2回にわたり現地のパートナー「フューチャー・フォー・ウクライナ(FFU)」の人道支援活動に同行した。5月は現在ウクライナの反攻が激化するザポリージャ州に、6月にはロシア軍によるカホフカ水力発電所ダム爆破で洪水に見舞われたヘルソン州に食料や衛生用品を届けた。

ロシア軍が占領する前線から約15キロメートルのザポリージャ州マロカテリノフカ村(人口3300人)とクシュグム村(同7800人)では住民が長い列をつくって支援が届くのを待っていた。マロカテリノフカ村は5月10日夜にロシア軍のロケット攻撃を受けて、4戸が完全に破壊され、計167戸が損壊した。救急隊員3人を含む8人が負傷した。

230707kmr_cur02.jpg

支援物資に並ぶクシュグム村の住民(同)

自宅が砲弾に直撃されたラドミラさんと母ナタリアさんは「病気のため寝たきりの祖母が自宅にいました。砲撃で天井が落ちてきて、炎に包まれました。何とか祖母を外に避難させることができました。神様が助けてくれたとしか言いようがありません」と話した。支援物資を住民に配っている間、「ゴロゴロ、ゴロゴロ」と遠雷のような音が聞こえた。

FFU人道支援ボランティアキュレーター、オルガ・グリューザさんは「ほら聞こえるでしょ。あれが砲撃や爆撃の音よ」と教えてくれた。オルガさんは、ロシア軍が占領する東部ドネツク市から18キロメートルも離れていない村に食料、衛生用品、衣類、オムツなど6トンの物資を届けた時、砲撃の音がうるさすぎて取材クルーが収録できなかったと振り返った。

前線に近い村は「シュルレアリスムな感じがした」

「同行した兵士は『あの音は遠く離れている。ロシア軍の攻撃。この音はウクライナ軍の攻撃』と正確に聞き分けることができました。シュルレアリスムな感じがしました。ドネツク州へのミッションは最も困難なものの1つでしたが、その村は前線に非常に近く、めったに支援の手が及ばないので、どうしても物資を届けたかったのです」(オルガさん)

「冬で、外は寒かったです。砲弾の炸裂音が響いていました。ロケット弾が命中した跡もありました」とオルガさんは話す。「前線に近い場所の子どもたちは全員、安全な場所に避難させるべきで、危険な地域にいてはならないはずです。しかし年齢も生活環境も異なる子どもたちがたくさん残されています。 そんな子どもたちを目の当たりにすると心が痛みます」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story