コラム

コロナの教訓「バイオテロにワクチン備蓄で備えよ」 英健康安全保障専門家が指摘

2023年02月08日(水)20時42分

「しかし教訓は残った。第一にバイオセーフティーレベル(BSL)3や4の実験室に関する安全性の合意形成の枠組みがない。ウイルスの疫学や伝播に変化をもたらすような方法でウイルスを操作する研究の倫理的な枠組みがない」

「第二に中国はSARSで動物市場にリスクがあることを知っていたので今回、野生動物の販売は違法として動物市場を即座に閉鎖した。しかし野生動物の闇市場は存在し、農場で飼育されていた。コロナウイルスを宿す野生動物を農場から一掃しなければならない証拠はそろっていたのに、そうはせず、市場労働者も教育していなかった」

「ウイルスがコウモリから来たのは分かっているが、コウモリと人間の間で何が起こったかは分からない。研究所や市場にリスクであることを私たちは学んだ」と語る。

生物兵器条約と化学兵器禁止条約に取り組め

ヘイマン氏は「生物兵器条約と化学兵器禁止条約に取り組むことが非常に重要だ。私は情報機関にアクセスできないが、バイオテロの大きな脅威があると信じられている。化学兵器禁止機関の本部がオランダ・ハーグにあり、事件が起きた時に調査する権限を有している。一方、生物兵器禁止条約にそのような権限は備わっていない」との懸念を示す。

「できることはたくさんある。各国は公衆衛生システムを強化しなければならない。バイオテロでも対応は同じだ。自然発生であれ、意図的に引き起こされたものであれ、アウトブレイク(発生)はアウトブレイクだ。医療システムの対応能力をレベルアップすることが必要だ。強力な公衆衛生と研究所のサービス、そして病原体に耐えうる健康な人口が必要だ」

「犯罪捜査や軍事捜査と連携する。自然発生的な感染症に対する備えもバイオテロ対策も同じように優れた強力な公衆衛生に依存している。バイオテロに対する抑止力も重要だ。例えば天然痘ワクチンを備蓄しておけば、誰かが天然痘ウイルスを武器として使おうとするのを防ぐことができるかもしれない」

「重要なのはこれらのウイルスや細菌の研究開発を進めることだ。なぜなら人間への自然感染を引き起こすのと同じ生物だからだ。米国には生物医学先端研究開発局(BARDA)があるおかげで、潜在的な生物兵器リストに載っている病原体のワクチン、薬、診断テストを開発するため民間セクターに資金を提供している」

現在エボラワクチンや、サル痘に使用されている非複製天然痘ワクチンが備蓄されている。軍事的な防衛安全保障システムから健康安全保障システムへの資源移転が実際に行われている。「これらのワクチンが利用できるようになったのは良いことだ。いま課題となっているのは備蓄されているワクチンを途上国で利用できるようにすること」(ヘイマン氏)。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ関税の大半違法、米控訴裁が判断 「最後は勝

ビジネス

アングル:中国、高齢者市場に活路 「シルバー経済」

ビジネス

米国株式市場=反落、デルやエヌビディアなどAI関連

ワールド

米、パレスチナ当局者へのビザ発給拒否 国連総会出席
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story