コラム

ウクライナ侵攻、もう1つの「厄災」...アフリカ「資源争奪戦」の欺瞞に満ちた実態

2022年11月15日(火)17時03分
ナイジェリア原油施設

ナイジェリアの原油・天然ガス施設(2020年9月) Afolabi Sotunde-Reuters

<アメリカやEUがアフリカを舞台に巻き起こすゴールドラッシュならぬガスラッシュは、「アフリカの発展のためにならない」と環境活動家>

[シャルム・エル・シェイク(エジプト)発]「約10年前、世界最大級の海底ガス田がモザンビーク北部の沖合で発見されました。この資源が人々の生活や人生に大きな打撃を与えています。膨大な数のコミュニティーが土地を追われ、海へのアクセスも奪われました。漁民は海にアクセスすることができなくなりました。彼らは内陸に移動させられたのです」

ダム反対運動で知り合ったパートナーとアフリカ南東部モザンビークの首都マプトで暮らすディプティ・バトナガルさんは国際環境NGO(非政府組織)「フレンズ・オブ・ジ・アース・インターナショナル」で気候正義と汚いエネルギー問題に取り組む。国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に参加し、筆者にその憤りを語った。

221115kmr_fcl01.jpg

気候正義と汚いエネルギー問題に取り組むディプティ・バトナガルさん(筆者撮影)

「海底ガス田開発はこの地域の反乱を助長し、生態系に甚大な被害を与えようとしています。天然ガスは脱炭素化に向けたエネルギー移行期の燃料ではありません。アフリカの発展には必要ありません。これらはすべて嘘です。偽りの物語です。日本や米国、英国、オランダといった国々がモザンビークの海底ガス田プロジェクトに資金を提供しています」

ロシアのウクライナ侵攻で、欧州はロシア産石炭、石油、天然ガス依存からの脱却を加速させる。その代替策として欧州から比較的近いアフリカ産天然ガスの争奪戦が過熱する。天然ガスは石炭、石油に比べ二酸化炭素排出量が少ないため移行期エネルギーとして注目を浴びる。アフリカで確認されている天然ガスの埋蔵量トップ5とその生産量は次の通りだ。

アフリカ産天然ガスの争奪戦

ナイジェリア 埋蔵量20万3056バレル毎日(Bd、1日当たり流量)、生産量1663Bd
アルジェリア 埋蔵量15万9054Bd、生産量3238Bd
モザンビーク 埋蔵量10万Bd、生産量155Bd
エジプト 埋蔵量6万3000Bd 、生産量2260Bd
リビア 埋蔵量5万3144Bd、生産兆374Bd
(出所)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)

中東諸国やベネズエラ、カナダ、ロシア、米国に比べてアフリカ諸国の天然ガス埋蔵量は少ないものの、背に腹は代えられない。

「私たちは日米欧に対し海底ガス田開発を止めるよう求めています。私たちは地域住民のためにコミュニティーに根ざした再生可能エネルギーを必要としています。電気を使えないアフリカの6億人にとってガスは選択肢ではないのです。ガスが気候危機を引き起こしており、汚い化石燃料の使用を続ける余地はありません」とバトナガルさんは強調する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カタール空爆でイスラエル非難相次ぐ、国連人権理事会

ビジネス

タイ中銀、金取引への課税検討 バーツ4年ぶり高値で

ワールド

「ガザは燃えている」、イスラエル軍が地上攻撃開始 

ビジネス

独ZEW景気期待指数、9月は予想外に上昇 「リスク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story