コラム

NATO加盟で腹をくくったフィンランド、マリン首相はこうして「鉄の女」になった

2022年05月14日(土)15時28分
サンナ・マリン首相

訪日したサンナ・マリン首相(5月11日) Franck Robichon/Pool via REUTERS

<貧しい家庭に生まれ、ときに軽率な行動で物議を醸すこともあった「史上最年少」首相が、フィンランドのNATO加盟を牽引する「鉄の女」になるまで>

[ロンドン発]ロシアを刺激しないよう「中立」を守ってきた北欧フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領とサンナ・マリン首相は12日、北大西洋条約機構(NATO)加盟について「わが国の安全保障を強化する。防衛同盟全体も強化できる。遅滞なく申請しなければならない」との共同声明を発表した。同じ北欧の中立国スウェーデンも後に続くとみられている。

NATO加盟に反対する左翼同盟はフィンランド議会(定数200)で16議席を有し、5党連立のマリン政権に閣僚2人を送り込むが、加盟申請が行われても政権にとどまる。議会の大多数が加盟申請に賛成している。両国から加盟申請があれば6月にマドリードで開かれるNATO首脳会議か、それ以前に承認されるのは確実とロイター通信は報じた。

ロシアとフィンランドの国境は1340キロメートル。加盟が実現すればロシアとNATOが接する国境は計2555キロメートルになり、これまでの倍近くになる。このためロシアは5月上旬、ポーランドとリトアニアに挟まれた飛び地領カリーニングラードで核弾道ミサイルの模擬攻撃訓練に成功したと発表した。ここからベルリンまで600キロメートルにも満たない。

NATO加盟30カ国すべての議会で批准手続きが終わるまで集団防衛を定めた5条は適用されないが、兵力提供やバルト海での演習や海上パトロールを増やし、必要があれば米英軍の部隊を順番に駐留させ「安全保障の空白」を埋める。

ボリス・ジョンソン英首相は11日、両国を訪れ、相互安全保障宣言に署名し、情報共有、合同演習・配備、サイバー・ハイブリッド戦争への対策を強化することを表明した。米軍もフィンランド上空で輸送機KC135ストラトタンカーが4機の近接航空支援専用機A10に空中給油するなど、ロシア側を牽制してみせた。

「首相というポストがマリンを成長させた」

フィンランドとスウェーデンが中立からNATO加盟に舵を一気に切った理由ははっきりしている。両国はテーラーメード方式で相互運用性を高めるNATOの「高次機会パートナー(EOP)」6カ国のメンバーだ。しかし2020年6月に加わったウクライナにロシア軍が侵攻したため、「EOP」ではロシアに対する抑止力が働かないと判断したからだ。

NATO加盟を支持する国内世論も2月53%、3月62%、5月に入ると76%までハネ上がり、反対はわずか12%にとどまっている。フィンランドにとって加盟申請の機は完全に熟した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米と薬価格引き上げに合意なら製薬会社に投資拡大要請

ビジネス

仏年金改革停止、他の措置で財政再建維持可能=経済担

ワールド

新たな米中貿易摩擦、タイ成長見通しにリスク=中銀副

ワールド

原油先物は小幅安、週間でも下落へ 米ロ首脳会談合意
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story