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NATO加盟で腹をくくったフィンランド、マリン首相はこうして「鉄の女」になった

訪日したサンナ・マリン首相(5月11日) Franck Robichon/Pool via REUTERS
<貧しい家庭に生まれ、ときに軽率な行動で物議を醸すこともあった「史上最年少」首相が、フィンランドのNATO加盟を牽引する「鉄の女」になるまで>
[ロンドン発]ロシアを刺激しないよう「中立」を守ってきた北欧フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領とサンナ・マリン首相は12日、北大西洋条約機構(NATO)加盟について「わが国の安全保障を強化する。防衛同盟全体も強化できる。遅滞なく申請しなければならない」との共同声明を発表した。同じ北欧の中立国スウェーデンも後に続くとみられている。
NATO加盟に反対する左翼同盟はフィンランド議会(定数200)で16議席を有し、5党連立のマリン政権に閣僚2人を送り込むが、加盟申請が行われても政権にとどまる。議会の大多数が加盟申請に賛成している。両国から加盟申請があれば6月にマドリードで開かれるNATO首脳会議か、それ以前に承認されるのは確実とロイター通信は報じた。
ロシアとフィンランドの国境は1340キロメートル。加盟が実現すればロシアとNATOが接する国境は計2555キロメートルになり、これまでの倍近くになる。このためロシアは5月上旬、ポーランドとリトアニアに挟まれた飛び地領カリーニングラードで核弾道ミサイルの模擬攻撃訓練に成功したと発表した。ここからベルリンまで600キロメートルにも満たない。
NATO加盟30カ国すべての議会で批准手続きが終わるまで集団防衛を定めた5条は適用されないが、兵力提供やバルト海での演習や海上パトロールを増やし、必要があれば米英軍の部隊を順番に駐留させ「安全保障の空白」を埋める。
ボリス・ジョンソン英首相は11日、両国を訪れ、相互安全保障宣言に署名し、情報共有、合同演習・配備、サイバー・ハイブリッド戦争への対策を強化することを表明した。米軍もフィンランド上空で輸送機KC135ストラトタンカーが4機の近接航空支援専用機A10に空中給油するなど、ロシア側を牽制してみせた。
「首相というポストがマリンを成長させた」
フィンランドとスウェーデンが中立からNATO加盟に舵を一気に切った理由ははっきりしている。両国はテーラーメード方式で相互運用性を高めるNATOの「高次機会パートナー(EOP)」6カ国のメンバーだ。しかし2020年6月に加わったウクライナにロシア軍が侵攻したため、「EOP」ではロシアに対する抑止力が働かないと判断したからだ。
NATO加盟を支持する国内世論も2月53%、3月62%、5月に入ると76%までハネ上がり、反対はわずか12%にとどまっている。フィンランドにとって加盟申請の機は完全に熟した。
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