コラム

70代のABBAが、若い姿の「アバター」になって42年ぶりの復活コンサート

2022年05月28日(土)16時36分
ABBAメンバー

ABBA Voyageコンサートのオープニングイベントに集結したABBAメンバー(5月26日) Henry Nicholls-REUTERS

<ABBAが大ヒットしたのは冷戦真っ盛りの時代。母国では彼らを「不真面目」と嫌う風潮もあったというが、再び政治が暗くなった現代に復活を果たした>

[ロンドン発]「ダンシング・クイーン」などのヒット曲で知られる世界的ポップグループのABBA(アバ)を「アバター(分身)」として再現するバーチャルコンサートが5月27日、英クイーン・エリザベス・オリンピック・パークの専用会場(3000人収容)で開幕した。今のところ来年5月まで続くロング公演となる見通しだ。

5週間にわたって人やモノの動きをデジタル化する最先端のモーションキャプチャースーツを身に着け、160台のカメラで70歳代になったスウェーデンの男女4人組の動きや表情をスキャン。そのデータをもとにホログラムで外見だけは若い「アバター」として鮮やかによみがえらせた。しかしその「中身」は年相応のABBAなのだ。

ABBAは昨年11月、40年ぶりに新曲を発表するとともに、新曲だけを収録したアルバム「ヴォヤージ(旅)」を発売した。「ヴォヤージ」はイギリスをはじめ世界各地でヒットチャートの1位になった。そして、これまで誰もやったことがないホログラムによるアバタープロジェクトが持ち込まれた。ABBAらしい全く新しいブランディング戦略だ。

バーチャルコンサートでは、「ヴォヤージ」の中から「アイ・スティル・ハヴ・フェイス・イン・ユー」や、「ダンシング・クイーン」や「マンマ・ミーア!」「チキチータ」など往年のヒット曲計20曲を事前に収録。本番のバーチャルコンサートでは生バンド10人のリアルタイム演奏とともに90分間にわたってABBAの「アバター」が熱唱した。

モーションキャプチャー技術には莫大なおカネがかかるため、会場代を含め1億4000万ポンド(約224億円)がすでに投じられた。しかし、環境に配慮したスウェーデンの海運会社をコンサートの独占物流業者に選んだ以外、企業スポンサーはつけなかった。このためコンサートが成功するか否かはすべてチケット販売にかかっている。

21ポンド(約3366円)、30.5ポンド(約4888円)、53.95ポンド(約8646円)、143ポンド(約2万2918円)と4種類のチケットは全部ですでに約38万枚が販売されたという。

アグネタ「再結成はそれほど難しい決断ではなかった」

女性ボーカル、アグネタ・フォルツコグは開幕に先立つ26日のレッドカーペットで英BBC放送に「音楽は私たちの一部なので(再結成は)それほど難しい決断ではなかった」と語り、「フリーダ」ことアンニ=フリッド・リングスタッドは「私たちは自分たちの音楽を愛し、歌うことを愛している」と付け加えた。

1982年の解散後、ツアーは二度としないと誓ったABBAにとってバーチャルコンサートは完璧なソリューションだった。日本での最後のコンサートから42年。このプロジェクトには1000人のビジュアル効果アーティストが参加。「アバター」としてABBAの動きや表情を再現するため10億コンピューティング時間が費やされ、会場に500台のライトが設置された。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story