コラム

70代のABBAが、若い姿の「アバター」になって42年ぶりの復活コンサート

2022年05月28日(土)16時36分

観客が笑ったり、泣いたり、感動すれば、「アバター」が演奏して歌うバーチャルコンサートは大成功である。30年以上にわたってABBA関連の書籍8冊を執筆したスウェーデンの伝記作家カール・マグナス・パーム氏はコンサートに先立つ24日、ロンドンの外国人特派員協会(FPA)で記者会見し、前日に行われたリハーサルの様子について語った。

220528kmr_abb01.jpg

ABBAの伝記作家カール・マグナス・パーム氏(筆者撮影)

「私は座っていたが、観客がダンスできるエリアがあり、みな立ち上がって踊っていた。パーティーのようだった。ABBAをよく知らない人たちまで同じように熱狂していた」。1979年にロンドンのウェンブリー・アリーナで行われたABBA最後のイギリス公演を思い出した人もいた。

「ABBAの音楽は真面目でも政治的でもない」

パーム氏は「実は1970年代、僕はABBAの大ファンではなかったんだ。とはいえスウェーデンで育ち、暮らしていれば、ABBAの魅力からは逃れられない。好きじゃないふりをしていても実はABBAのことが好きだったんだ。当時のスウェーデンにはアンチな雰囲気があり、ABBAは真面目な音楽ではないし、政治的でもないという文化があった」と振り返る。

ABBAが大ヒットしたのは核兵器を大量に保有する米ソが対立していた冷戦真っ盛りの1970年代から80年代前半。70年代は石油危機で世界は悪質なインフレに見舞われた。ロシア軍がウクライナに侵攻、核による威嚇が当たり前のようになり、インフレが高進する現在と、ABBAがヒット曲を連発した時代はパラレルを描いている。

「ABBAの音楽は社会問題についてではない。でも結局は素晴らしい音楽なんだと思うようになったんだ。一般的な音楽ファンとしてビートルズの本をたくさん読んだ。どのようにその曲が作られたのかというバックグラウンドストーリーが私は大好きで、誰に頼まれるでもなく、自分でABBAの本を書いてみようと思ったんだ」

パーム氏によれば、現在のポップミュージックは旋律よりサウンド、カリグラフィー、リズムが重視されるが、ABBAの曲作りはいつも旋律から始まる。ABBAの音楽は強い旋律が特徴だ。そしてコーラス前の導入部分であるヴァースとコーラスなどすべてが強力なパッケージとして磨き上げられている。

ABBAミュージックの秘密とは

ABBAは1982年に活動休止を発表した後も、ヒット曲を集めたアルバム『ABBAゴールド』が90年代に発売されたのに合わせて世界的に再ブームが起きた。映画『ミュリエルの結婚』『プリシラ』で関心を集めたり、ミュージカルの『マンマ・ミーア!』が映画化されて大ヒットしたりするなど長年にわたって人気を保ってきた。

筆者はパーム氏に一番お気に入りの秘密を教えてくれないかと頼んでみた。パーム氏は即座に「それは教えられないよ」と笑った。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:「トランプ2.0」に備えよ、同盟各国が陰に陽

ビジネス

午後3時のドルは一時155.74円、34年ぶり高値

ビジネス

東京ガス、25年3月期は減益予想 純利益は半減に 

ワールド

「全インドネシア人のため闘う」、プラボウォ次期大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story