コラム

実は効いていない「ロシア制裁」...巨大な「抜け穴」とは? 元米財務長官が指摘

2022年04月12日(火)12時32分

インフレについて「アメリカのインフレは1960~70年代と類似点が増えている。数カ月前の私の懸念は『大砲もバターも』時代の過ちを再現しているということだった。金融緩和を伴う過度な財政政策が賃金を大幅に上昇させ、急激なインフレを引き起こした。今回はウクライナ戦争による商品価格の高騰や中国の都市封鎖という不運が重なっている」と語る。

「アメリカはハイインフレに入る大きなリスクを抱えている。マネタリーポリシーだけで防ぐのは非常にデリケートな問題だ。歴史的に見ても失業率が4%以下で、インフレ率が4%を超えた時、アメリカは2年以内に景気後退に陥っている。マクロ経済政策は需要に影響を与えられる。総合的な政策で需要水準を供給水準に合わせることが課題になる」

インフレに向かう世界

「現在、アメリカでは賃金のインフレ率が6%を超えている。欧州大陸では状況は多少異なり、極端な労働力不足には至っていない。それほど強力な財政拡張政策がとられたとも思えない。そのためより抑制的でより緩やかな政策が適切だ。世界はインフレという難しい時代に向かっている。イギリスに関しては確実に当てはまる」

中国の都市封鎖については「需要の減少から来るデフレ圧力がある一方で、サプライチェーンに大きな支障をきたす恐れがある。インフレに対する正味の影響は確信を持って判断できない」とだけ述べた。全体として見た場合「コロナで経済を閉鎖して再開しただけでは潜在的な生産規模が大きく損なわれることはない」との見方を示した。

「アメリカでは人口の半分がコロナを発症していると推測されるが、そのうちの1%が働けなくなれば失業率の1%に相当する。労働力人口が増えれば賃金が下がり、デフレになると言われるが、労働力人口が増え失業率が上がらなければ、働く人、稼ぐ人、使う人が増えることになり、賃金を押し上げる作用がある」

コロナでリモートワークが拡大した。「ZOOM会議が増えて移動時間が省略でき、生産性が向上した。一方、病院の看護師は人手不足で疲れ切っている。それが生産性の成長にどのような影響を及ぼすのか。人々には通勤や移動、着替えの時間を減らしたいと望んでいる。ニューヨークやロンドンに住みたい人は少なくなるだろう」と言う。

「ドイツの脱原発政策は失敗」

一方、債務の持続可能性については「あまり心配していない」と言う。「1990年代前半、ドイツの名目金利は9%、実質金利は5%で、政府債務を国内総生産(GDP)の60%に抑えることを決定した。現在、実質金利はマイナスだ。アメリカで急騰した名目金利も9%に比べると低い。インフレに対する懸念の方が大きい」とインフレ対策を優先させるよう強調した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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