コラム

「COP26はグリーンウォッシュの祭典」子供たちを脱資本主義に誘うグレタさん

2021年11月06日(土)12時17分

「私たちが今、自問しなければならないのは私たちが何のために闘っているのかということだ。私たちは自分自身や生きている地球を守るために闘っているのか、それともいつも通りのビジネスを維持するために闘っているのか。彼らは、私たちの力を取り戻すための私たちの叫びを無視することはできない」

「権力者は限りある地球における永遠の成長や、どこからともなく突然現れてこれらの危機をすべて消し去ってくれる技術的解決策という空想に満ちたバブルの中で生き続けることができる。世界が文字通り火の海となり、最前線で暮らす人々が気候危機の矢面に立たされているというのに」

グレタさんが目の敵にする「カーボン・オフセット」

COP26ではパリ協定ルールブック最後のピースである6条(排出削減量の国際取引を行う「市場メカニズム」)での合意を目指している。脱資本主義を唱えるグレタさんが目の敵にしているのは「カーボン・オフセット」。どうしても避けられない温室効果ガスの排出について、排出量に見合った削減活動への投資によって埋め合わせようという考え方だ。

グレタさんは3日、「COP26 グリーンウォッシュの警告!」と題した連続ツイートで「化石燃料産業と銀行は気候変動の最大の悪者の一つだ。シェルとBP、スタンダードチャータード銀行はグラスゴーでカーボン・オフセットの規模を拡大し、汚染者に汚染を続けるためのフリーパスを与えようとしている」と指摘した。

「今こそ『企業詐欺タスクフォース』を解体する時だ。公害をまき散らす利益主義者はオフセットを気候変動ゲームにおける『無料で刑務所から出られるカード』と考えている。しかしオフセットはしばしば危険な気候変動の嘘だ。オフセットには人権侵害のリスクがあり、すでに弱い立場にあるコミュニティーを傷つけてしまう」

「オフセットはしばしば偽善であり、COP26ではそれが渦巻いている。南半球や先住民族の土地利用に大きく依存した自然ベースのオフセットは北半球の国々が行った排出量の責任をすでに気候危機の影響に苦しみ、その責任が最も小さい国々に転嫁する危険性がある。オフセットのような危険な気候変動の嘘で自分たちを守れない」

kimura20211106112704.jpg(筆者撮影)

「未来のための金曜日」行進には「授業より地球を守る方が大事」と学校をボイコットしてきた子供たちや家族連れら約1万人が参加して「気候変動は戦争だ」「革命を起こそう」とシュプレヒコールを上げた。「地球を守るため学校をボイコットしたグレタさんは正しい。今、行動を起こせば地球は救える」と地元の小学生アイラ・マクラインさん(10)は言う。

社会主義ユートピアを掲げるスコットランド民族党(SNP)が自治政府を運営するスコットランドには社会主義シンパが多くいる。温暖化対策だけでなく資本主義を根底から覆そうと唱えるグレタさんのアジテーションは幼い子供たちには毒が強すぎるように感じられたのは筆者だけか。

kimura20211106112705.jpg(筆者撮影)

貧富の格差を拡大させ、環境を破壊するグローバル資本主義が修正を求められているのは間違いない。しかし公正な市場メカニズムまで完全に否定してしまうことはできないだろう。同じ温暖化阻止を目指しながら、グレタさんはCOPに背を向け始めた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、米国への「陰謀」否定 トランプ氏に反論

ワールド

タイ政府が特別組織立ち上げへ、米国との新たな貿易ル

ワールド

日経平均は反落、米ハイテク株安を嫌気 金融株弱い

ワールド

インドのサービスPMI、8月は15年ぶり高水準 価
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story