コラム

日本のサイバー能力はベトナム並み!? 平和憲法の壁を「サイバー同盟」で乗り越えよ

2021年08月11日(水)11時57分

ウィレット氏は33年間、英政府通信本部(GCHQ)に勤務し、イギリスのサイバー戦略の礎を築いた電子諜報の専門家。ランク付けでは(1)戦略と教義(2)統治・指揮統制(3)サイバーインテリジェンス(4)サイバー産業基盤(5)サイバーセキュリティーと回復力(6)サイバー空間の指導力(7)サイバー攻撃能力――の7分野を評価した。

今回、対象になった15カ国は、電子スパイ同盟「ファイブアイズ」の米英豪、カナダとファイブアイズの友好国フランス、イスラエル、日本。ファイブアイズへの主要なサイバー脅威となる中国、ロシア、イラン、北朝鮮。「サイバー途上国」のインド、インドネシア、マレーシア、ベトナムだ。

米NSAの支援を受け電子諜報を始めた防衛省情報本部電波部

日本国憲法21条は「通信の秘密」を定めており、サイバー空間で電子情報を収集できる範囲を厳しく制限している。日本唯一の電波情報機関として各種電波の処理・解析を行ってきた防衛省情報本部電波部が米国家安全保障局(NSA)の支援を受けてサイバー空間での情報収集を始めたものの、現行憲法の壁は依然として大きいとウィレット氏は分析する。

サイバー攻撃能力についても憲法9条によって制約されている。しかし安倍晋三前首相が憲法解釈を変更して集団的自衛権の限定的行使を容認した。2015年の日米防衛協力のための指針では、日本の安全に影響を与える深刻なサイバー事案が発生した場合、日米両政府は緊密に協議し、適切な協力行動をとり対処すると明記した。

最も狭い解釈ではアメリカの支援は在日米軍が使用する日本の重要な情報インフラの防衛に限られる。一方、最も広い解釈では集団的自衛権の行使をうたった北大西洋条約機構(NATO)5条と似て、日本に対する深刻なサイバー攻撃はアメリカへの攻撃と同じようにみなされるとウィレット氏は解説している。

中国や北朝鮮への懸念から日本もサイバー能力を向上させており、2024年ごろまでに陸海空自衛隊で混成するサイバー防衛隊を500人に増強する。しかし依然として、日米同盟にどっぷり依存しているのが実態だ。中国や北朝鮮はますますサイバー能力を強化させているため、日本はファイブアイズを軸に「サイバー同盟」のウィングを広げる必要がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story