コラム

日本のサイバー能力はベトナム並み!? 平和憲法の壁を「サイバー同盟」で乗り越えよ

2021年08月11日(水)11時57分
ハッカーイメージ

国家ハッカーとの戦いに備えよ PhotoAttractive-iStock.

<英シンクタンクIISSの評価では、日本はとくにサイバーインテリジェンス力と攻撃的サイバー能力で遅れている>

[ロンドン発]英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が6月に発表した「サイバー能力・国力評価」で、日米欧と中国、東南アジア諸国など計15カ国の中で日本を最下位の3番手グループにランク付けした。そのメソッドを作ったIISSサイバー担当上級顧問マーカス・ウィレット氏が筆者の「日本のサイバー能力はどうしてそんなに低いのか」という質問に答えた。

ウィレット氏はこう語る。「トップのアメリカを含め15カ国の中にどの分野にも穴がないという完璧な国は存在しない。世界トップ50に入るデジタル企業の数では日本はアメリカに次いで2番目に多く、非常に強い産業基盤を持っている。どの国にも言えることだが、まずサイバーセキュリティーと回復力を向上させる必要がある」

210811kimura.jpeg
マーカス・ウィレット氏(筆者がスクリーンショット)

「日本が特に考慮しなければならないのはサイバーインテリジェンス(サイバー空間の諜報活動)と攻撃的サイバー能力の2分野だ。歴史的な理由(日本国憲法の平和主義)から他の国と同じようにこの2つの能力を構築できなかった。しかし日本には良い解決策がある。西側諸国と2国間または多国間で同盟関係を結び、協力を得ることができる」

「サイバー空間における同盟で中国やロシアに対して強いメッセージを送ることが可能になる。もちろん中国やロシアも同様に集団的に対応することができる」。アメリカはサイバー攻撃に対して集団的自衛権の行使を宣言しており、日本もアメリカがサイバー攻撃を受けた場合、「武力行使の新3要件を満たせば、武力を行使できる」との立場を鮮明にしている。

サイバー同盟はファイブアイズが軸になる

ウィレット氏による「サイバー能力・国力評価」のランク付けは次の通りだ。

cyber_social-media_tiers.jpeg

【第1グループ】
アメリカ
【第2グループ】
オーストラリア、カナダ、中国、フランス、イスラエル、ロシア、イギリス
【第3グループ】
インド、インドネシア、イラン、日本、マレーシア、北朝鮮、ベトナム
(IISSのホームページより)

日本では富士通やNECなどITゼネコンによる囲い込みで新規参入が阻まれ、少子高齢化もあって、アメリカの「GAFA」のようなビッグ・テックが育たなかった。デジタルは日本のウィークポイントだ。憲法上の制約から生じたサイバー空間の弱点を補うには、アメリカ以外の西側諸国とも「サイバー同盟」を結べるよう法律上の整理をしておくことが不可欠だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻

ワールド

米、ウクライナの長距離ミサイル使用を制限 ロシア国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく 砂漠化する地域も 
  • 4
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    【独占】高橋一生が「台湾有事」題材のドラマ『零日…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story