コラム

がら空きのコロナ予防接種センター、貴重なワクチンは余って山積み──イギリスに負けたEUの失敗

2021年02月26日(金)20時57分

イギリス製ワクチンの悪口を言った独仏は自ら墓穴を掘ったようだ(写真は2月2日、ワクチンメーカーとのビデオ会議で話すマクロン仏大統領) Ian Langsdon/REUTERS

<医療従事者のうちワクチンを接種したのは3割未満>

[ロンドン発]欧州連合(EU)本部があるベルギーの首都ブリュッセル。コロナワクチンの集団予防接種センターはガラガラだ。現地の英字紙ブリュッセル・タイムズによると、声を掛けられたプライマリーケア従事者1万1千人のうち実際に1回目の接種を受けたのはわずか3千人(27%)だった。

ブリュッセルのあるセンターでは1日約1千人が接種を受けられる能力があるのに、接種を受けているのは1日200人。他のセンターでも1日900人接種可能で、2つのセンターを合わせて3週間で約3万9900人に接種できたはずなのに、実際に接種したのは約3千人に過ぎなかった。

英BBC放送は1日5千人接種できるセンターでその日接種を受けたのは200人、取材に訪れた1時間で見かけた接種予定者は1人だけだったと報じた。コロナによるベルギーの死者は2万2千人を超え、人口100万人当たりの死者は1893人。EU加盟国の中では最悪、イギリスの1792人よりひどいのにもかかわらず、ベルギーの集団予防接種は進まない。

常温では不安定なm(メッセンジャー)RNAを使う米ファイザー製や米モデルナ製ワクチンは一度解凍してしまうと保存が効かないため、接種予定者が会場に現れないと破棄しなければならない。一体どれぐらいのワクチンがムダにされているのだろう。

ブリュッセルでワクチン接種が広がらない理由が、医学的知識の欠如からか、予約ミスによるものか、それともワクチン・ヘジタンシー(忌避)が原因なのかは分からない。独仏両国が意図的に撒き散らした英オックスフォード大学・英製薬大手アストラゼネカ製(AZ)ワクチンへの不信感も一因になっている。

ベルギーよりワクチン接種が進まないフランス

オックスフォード大学に拠点を置く統計サイト「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」によると、100人当りのコロナワクチン接種回数は下のグラフのようになる。ベルギーより接種が進んでいないのがエマニュエル・マクロン大統領の独り相撲が目立つフランスだ。

kimurachart1.jpg

ベルギー6.12回に対してフランス5.86回。ちなみにワクチン接種による「集団免疫」の獲得を目指すイギリスは27.86回だ。

マクロン大統領は1月29日、EUの欧州医薬品庁(EMA)がAZワクチンの18歳以上への使用を推奨する数時間前、「現時点で65歳以上にはほとんど効果がない。初期の結果は60~65歳を勇気付けていない」「12週間置いて2回接種するイギリスのやり方はウイルスの変異を加速する」と言いたい放題だった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

IEA加盟32カ国、4億バレルの戦略石油備蓄放出で

ワールド

イラン、「原油200ドル」警告 報復から継続攻撃へ

ワールド

イラン新最高指導者モジタバ師「軽傷」、職務継続=イ

ビジネス

イーライリリー、中国に10年で30億ドル投資へ 肥
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 7
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 8
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 9
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 10
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 10
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story