コラム

ワクチン効果で「自由への道」を邁進するイギリスの4段階ロードマップ それでも新たな死者は5万4800人に

2021年02月23日(火)18時08分

各段階で4週間様子を見て問題がなければ1週間後に次の段階に進むことを発表する。ジョンソン首相は昨年も同じように段階的に都市封鎖を解除したものの、ワクチンはまだ開発中で第二波を防ぐことはできなかった。しかも保守党内強硬派から突き上げられ、経済再開を優先して活動制限を緩和せざるを得なかった。

封鎖解除を急げば死者は最悪シナリオで14万6400人に

今回、同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。「イギリスの8割おじさん」ニール・ファーガソン教授率いるインペリアル・カレッジ・ロンドンの専門家チームは4月26日までにすべての規制を解除した場合、今年2月~来年6月間の死者は9万1300人(5万2500~14万6400人)に達する恐れがあると警告する。

さらにウイルスの感染力が強まれば死者は15万4千人(9万6千~22万2400人)。ワクチンの有効性が低ければ14万6千人(8万2300~23万2100人)に犠牲は膨らむ。

しかし4段階ロードマップに従えば新たな死者を5万4800人(3万2600~8万2900人)まで抑制できる。ウイルスの感染力が強まれば9万8100人(5万8500~14万8100人)、ワクチンの有効性が低ければ9万4400人(5万8300~14万6700人)に犠牲は膨らむ。

ジョンソン首相は昨年3月、都市封鎖の実施をためらい、秋には2度目の都市封鎖が遅れた上に解除を急いだため、犠牲を不必要に拡大させてしまった。その反省からジョンソン首相はファーガソン教授をはじめ科学の声に謙虚に耳を傾けるようになった。

イングランド公衆衛生サービスによると、ファイザー製ワクチンを接種した65歳未満の医療従事者では1回接種で感染は70%以上減り、2回接種すると85%減少。80歳以上では1回目の接種後、3~4週間で発症は57%減り、2回接種では85%増も減少していた。

入院患者や死者はすべての年代で減り、1月中旬以降、最も高齢のグループでいずれも急速に減少。ファイザー製ワクチンの1回接種で入院や死亡は75%以上も減っていた。80歳以上で感染して死亡するリスクは1回接種後2週間で未接種者より56%、入院リクスも40%少なくなっていた。

アストラゼネカ製ワクチンを高齢者に接種した臨床データが不足していることから、EU加盟国が同ワクチンの有効性にあらぬ疑念を唱えている。このためジョンソン政権は高齢者を対象にしたアストラゼネカ製ワクチンの臨床データ収集を急いでいる。

今年、先進7カ国(G7)首脳会議と第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)のホスト役を務めるジョンソン首相は、ワクチンの集団予防接種による「集団免疫」獲得戦略を成功させ、EU離脱後のイギリスの存在感を世界に示す構えだ。

それに比べて「人類がコロナとの戦いに打ち勝った証として安全・安心の東京五輪・パラリンピックを実現したい」とG7オンラインサミットで誓った菅義偉首相のロードマップは全く示されないままだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story