コラム

英変異株で致死率は65%も跳ね上がった 新局面を迎えた対コロナ戦争【コロナ緊急連載】

2021年01月23日(土)13時54分

「変異株は高い致死率と関連」と発表したジョンソン英首相(1月22日、ロンドンの首相官邸)

[ロンドン発]イギリスで猛威をふるう感染力が最大70%も強い新型コロナウイルスの変異株(イギリス株)について、ボリス・ジョンソン英首相は22日の記者会見で「感染の広がりが速いだけでなく、高い致死率と関連している可能性がある」と警鐘を鳴らした。数値にはまだ不確実性が残るものの、イギリス株の感染者の致死率は65%上昇したとみられるという。

同国では3度目のロックダウン(都市封鎖)で新規感染者数は急減、80歳以上の71%と高齢者介護施設入所者の3分の2を含む540万人(成人人口の10分の1)に1回目のワクチン接種を終えた。イギリス株に現在のワクチンは有効だが、さらに変異が大きい南アフリカ株やブラジル株には効かない恐れがある。

このため英政府は南米、ポルトガル、アフリカ諸国を対象に水際作戦を強化している。

ジョンソン首相は「1日当たりの新規感染者数は4万261人。現在入院しているコロナ患者は3万8562人で、昨年4月の最悪期より78%も高い。悲しいことにさらに1401人が死亡した。これらの主要因はイギリス株だ」と述べ、2月中旬までに上位4つのハイリスクグループ1500万人への1回目の接種を終えることを最優先にする基本戦略に変わりはないことを強調した。

ワクチン接種の判断はそれぞれ個人に委ねられているとはいうものの、こう釘を刺した。「接種の知らせが届いたら、予約して自分の命を救う保護を受けることをためらわないで下さい。これは私たち全員がこのウイルスを打ち負かして私たちの日常生活を取り戻すための最良かつ最速の方法だから」。ジョンソン首相はなりふり構わず「社会防衛」としてのワクチン接種を鮮明に打ち出した。

南ア株とブラジル株に既存のワクチンは効かない

パトリック・ヴァランス英政府首席科学顧問は「数値には多くの不確実性があり、正確に分析するにはさらなる作業が必要だが、イギリス株により感染性が増すとともに致死率が増加することが明らかに懸念される」と述べた。その上で南ア株とブラジル株について「ワクチンの影響を受けにくくなる可能性を示す特定の特徴を持っている」と指摘した。

経済的な影響を恐れ早期の封鎖解除を求める保守党内強硬派の声を抑えるため、英政府の新興呼吸器系ウイルス脅威諮問グループ(NERVTAG)はすぐに「イギリス株に感染すると他の株よりも死亡するリスクが増す現実的な恐れがある」と結論付ける報告書を公表した。複数大学や公衆衛生当局の分析でイギリス株と他の株の致死率について明らかな有意差が確認されたという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

26年度賃上げスタンス、大半の支店で前年度並みとの

ワールド

「尹氏は北朝鮮の武力侵攻誘発を試みた」、韓国特別検

ワールド

ガザで避難地域に洪水の危険、防災資材搬入認められず

ビジネス

中国11月鉱工業生産・小売売上高、1年超ぶり低い伸
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story