コラム

ドイツはプライバシー保護を徹底 京アニ犠牲者の実名公表・報道の是非を考える

2019年09月18日(水)18時30分

犠牲者が親族の同意なしに特定されるケースも

ドイツ・プレス評議会に被害者が死亡している場合、氏名をどのように扱っているか問い合わせたところ、次のような回答が返ってきました。

「被害者の保護は、ドイツ・プレス評議会の苦情処理において高い意味を占めています」

「昨年、私たちの最も重い制裁措置である公的戒告(public reprimand)の28件のうち13件は報道規範(プレスコード)セクション8のプライバシー保護の違反に関係しています。そのうち8件は被害者の保護に違反していました」

「こうしたケースでは、暴力事件や事故の犠牲者が親族の同意なしに特定されたり、広範な人々に認識されたりすることが頻繁に起きています」

「編集者はしばしば、親族や関係者の許可を得ないまま無断でFacebookやTwitterのアカウントからプライベートな写真を使いました。これは大衆紙(タブロイド)に限られる問題です」

「プレス評議会は、今、起きている出来事を包括的に伝えることは報道の責任であるものの、親族や関係者の犠牲の上に亡くなった被害者を描写することは許されないと強調しています」

「さらに個人の特定は通常、事件・事故を理解することと関係ありません。報道機関の規範によると、編集者は犠牲者またはその親族に写真や名前を公開する許可を求める必要があります」

「プレス評議会は2013年に人格保護に関する規則(セクション8)を改訂しました。特に、犯罪者と被害者の報道に関する倫理規則が改められました」

「新しい点は、被害者報道に関する取り決めと、特に加害者と容疑者を取り扱う犯罪報道に関するガイドラインが設けられたことです」

「もちろん例外はあります。『現代史に刻まれる人物』の写真や名前を伝える場合です。例えば、欧州難民危機の際、トルコの海岸で亡くなった難民少年アラン・クルディちゃん=当時(3)=の写真は現代史の記録です」

「『写真は、難民が欧州への困難な旅で直面する苦難と危険のシンボルだ』とプレス評議会のメンバーは言いました。戦争の惨禍、人身売買の危険、欧州への道を報道することは公共の利益に適います」

「子供の写真は、不当にセンセーショナルではなく、品位を落とすこともありませんでした。子供の顔を直接、確認することはできません。 『プライバシーに関する彼の権利は侵害されていません』とプレス評議会は判断しました」

「プレス評議会はこの写真の掲載は『根拠を欠いている』として出された19件の苦情を検証しました」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

衣料通販ザランド、マーケティングにAI活用 時短・

ワールド

ガザ人質24人が生存、イスラエル政府 トランプ氏の

ビジネス

独鉱工業受注、3月予想以上に増加 関税の影響が焦点

ビジネス

塩野義、JTの医薬事業を1600億円で買収 鳥居薬
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べる…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    「欧州のリーダー」として再浮上? イギリスが存在感…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 9
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 10
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story