コラム

中国の一帯一路「もう一つのシルクロード」にも警戒が必要だ

2019年06月06日(木)18時50分

ジェノバ港に停泊するCOSCOの貨物船(5月、筆者撮影)

[ギリシャ・ピレウス、イタリア・ジェノバ発]中国は、ドナルド・トランプ米大統領が仕掛ける貿易戦争で欧州とアジアの貿易が増えるとにらんでいる。米中、米・欧州連合(EU)の貿易が落ち込めば、中欧貿易が浮かぶという構図だ。

中国がエジプトのスエズ運河、ギリシャのピレウス港、イタリアのジェノバ港、トリエステ港で開発を進めるのはそのためだ。しかし「陸と海のシルクロード」以外の「もう一つのシルクロード」にも注意を払う必要がある。

5月下旬、ジェノバ港を遊覧船で巡ると、中国遠洋海運集団(COSCO)のコンテナ船を1隻だけ見つけることができた。COSCOにまるごと買収されたピレウス港のコンテナ埠頭に比べると施設が老朽化し、稼働率がそれほど高くないことがうかがえる。

中世に海洋国家として栄えたジェノバはイタリア最大の港町。新大陸を発見したコロンブス(1451~1506年)の出身地としても知られる。市庁舎として使われる王宮や赤の宮殿、白の宮殿が並ぶガリバルディ通り、バルビ通りは世界遺産に登録されるが、栄光はもはや過去のもので寂寥感が漂う。

3月、中国の習近平国家主席のイタリア訪問に合わせ、ジェノバ港とトリエステ港の開発について覚書が交わされた。先進7カ国(G7)の中で一帯一路を承認したのはイタリアが初めて。米国もEUも強い警戒感を示したが、低成長に苦しむ老大国には背に腹は変えられない。

断れない中国マネー

欧州のロジスティックを研究するCEMILと上海海事大学の調査では昨年、COSCOが運営するピレウス港のコンテナ取扱量は490万8000TEU(20フィートコンテナ換算)で欧州第6位。前年より順位を2つも上げた。2007年から258%もコンテナ取扱量が急増した。

ジェノバ港は260万9000TEUで欧州第12位。07年から41%しかコンテナ取扱量は増えていない。中国交通建設(CCCC)の投資を呼び込むことで港湾施設を再構築して貨物取扱容量を増やし、稼働率を上げる狙いがある。

ジェノバ港は新しい防波堤を整備し、港湾施設への道路や鉄道のアクセスを良くするとともに造船や修理施設を拡充。コンテナ取扱量も100万TEU増やす計画だ。

ピレウス港では労賃を引き下げる一方で、ストライキを追放するため巧妙な組合潰しが進められている。港の労組はどこも強い。しかし地中海には競争相手が多く、ストライキが多い港はどうしても敬遠される。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は小幅続落、年末のポジション調整

ビジネス

中国航空会社2社、エアバス機購入計画発表 約82億

ワールド

コロンビア、26年最低賃金を約23%引き上げ イン

ワールド

アルゼンチン大統領、来年4月か5月に英国訪問
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story