コラム

中国の一帯一路「もう一つのシルクロード」にも警戒が必要だ

2019年06月06日(木)18時50分

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COSCOが開発したピレウス港のコンテナ埠頭(1月、筆者撮影)

香港のアジア・タイムズによると、米国や北大西洋条約機構(NATO)は中国が欧州の港湾施設の支配権を強めていることに対し、軍事スパイの懸念を強めている。しかしジェノバ港湾当局は「スパイは問題ではない。米国もNATOもイタリアの商業港しか使っていない」と反論する。

安全保障上の利害が対立しない中国とEUは経済関係を強化するのにためらいがない。とりわけ、ノドから手が出るほど外資を必要とする南欧諸国のギリシャ、イタリア、ポルトガル、成長著しい旧共産圏諸国は全く歯止めがかからない。

しかし、中国問題を研究する独シンクタンクMERICSのカイ・フォン・カルナップ氏は「もう一つのシルクロード」についても警鐘を鳴らす。カルナップ氏にスカイプでインタビューした。

――中国が欧州に一帯一路を広げる理由は

「まず購買力のある欧州に市場を広げたいというのが初期段階。今は政治的な影響圏を広げる段階に入っている。とりわけ米国に対抗するため、仲間を集めようとしている。欧州は中国にとって経済的にも政治的にも同じほど重要な地域になっている」

――最近の論文で中国が一帯一路にブロックチェーンを組み合わせようとしていると指摘したが

「ブロックチェーンは1つである必要はなく、多くの企業の異なるブロックチェーンが併存するようになる。アリババだけでもすでに1つ以上のブロックチェーンを持っている。もっと多くのロジスティクス企業が存在する」

「ロジスティックの効率性が重要になってくる。最も早いサービスとテクノロジーが一帯一路の企業や消費者に必要となる。中国企業は唯一のブロックチェーンではなく、より効率的にデータを保存し、分散させ、処理する方法を適用しようとしている」

――中国は貿易のためにブロックチェーンを活用しようとしているのか

「その通りだ。財(モノ)の移動をより効率的にしようとしている。中国国外でのモノの移動だけでなく、消費者とは直接関係のないレアアース(希土類)などの移動もそうだ。国境を超えるすべてモノを効率的に管理するインフラのようなものだ」

――もうすでに実用化されているのか

「それに答えるのは難しい。マーケティングのためのキャンペーンやスローガンは出回っている。アリババはブロックチェーンを使って50カ国でモノの移動を追跡している。海運会社はブロックチェーンで3000万ものモノを管理している。これらは民間のブロックチェーンだ」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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