コラム

日本の防衛費「GDP1%枠」は聖域か、それとも単なる数字合わせ? 世界平均は2.2%

2018年05月02日(水)21時40分

日本が42機調達する計画のステルス戦闘機F35A(アメリカ空軍HPより)

[ロンドン発]中国やロシアの領土的野心が浮き彫りになる中、世界の国防支出が過去最高になったことが5月2日、紛争や軍備を研究する有力シンクタンク、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の調査で明らかになった。

世界最大の軍事大国アメリカは2008年から昨年にかけての10年間で国防支出を14%も減らしたのに対し、中国は110%も拡大しており、米中逆転が少しずつ現実味を帯びつつある。

世界の国防支出が「過去最高」とは言っても下のグラフをご覧いただくと分かるように、1999年から2011年にかけ右肩上がりでぐんぐん増えたものの、世界金融危機とその後、先進国の緊縮財政で12年以降は横ばい状態が続いている。

kimurachart180502.jpg

昨年は前年比1.1%増の1兆7390億ドル(約191兆円)。16年の実質米ドルに換算すると1兆6859億ドルとなり、それまでの過去最高だった11年の1兆6845億ドルをほんの少しだけ上回った。

第2次冷戦が始まった

「アメリカは世界の警察官を止める」と宣言したバラク・オバマ前米大統領の軟弱外交のおかげで、中国の南シナ海や東シナ海への海洋進出、ロシアのクリミア併合に端を発するウクライナ危機、北朝鮮の核・ミサイル危機と地政学リスクが急激に高まった。

「ポスト冷戦」は終わりを告げ、「第二次冷戦」が始まったことを国防支出の拡大は物語っている。世界の国防支出の内訳は(1)アメリカ6100億ドル(2)中国2280億ドル(3)サウジアラビア694億ドル(4)ロシア663億ドル(5)インド639億ドル。フランスとイギリスは6位と7位にとどまり、日本は8位の454億ドル(約4兆9800億円)。

kimurachart180502-2.jpg

トップ15に中国、インド、日本、韓国、オーストラリアの5カ国が入り、中国の軍備増強や北朝鮮の核・ミサイル開発がアジア・オセアニア地域に緊張をもたらしている現状を浮かび上がらせた。

国防支出で見た先進国と新興国の逆転はすでに顕在化しており、北大西洋条約機構(NATO)や日米同盟、米韓同盟を軸にした西側諸国のさらなる結束が求められている。

2016年から17年にかけての国防支出の増減では(1)ルーマニア50%増(8)キプロス22%増(9)リトアニア21%増(11)ラトビア21%増(15)ルクセンブルク19%増とロシアの脅威に怯える欧州勢と、(10)フィリピン21%増(12)カンボジア21%増と中国の台頭が著しいアジア勢の軍備増強が目立った。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「MSNBC」が「MS NOW」へ、コムキャスト

ビジネス

米8月住宅建設業者指数32に低下、22年12月以来

ワールド

ハマス、60日間の一時停戦案を承認 人質・囚人交換

ワールド

イスラエル、豪外交官のビザ取り消し パレスチナ国家
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story