コラム

土壇場でひっくり返されたブレグジット合意 初めて見えたEU離脱のほのかな光明

2017年12月06日(水)16時40分

メイ英首相は北アイルランド民主統一党(DUP)のフォスター党首(写真)を説得できるか Andrew Paton-REUTERS

[ロンドン発]12月4日の月曜日はイギリスの欧州連合(EU)離脱交渉・第1フェーズのデッドラインだった。イギリスが離脱清算金額をめぐり大幅に譲歩したため、第2フェーズの通商協議にようやく入ることができるという楽観論がイギリス、EUの双方から流れていた。

北アイルランド国境問題

欧州議会のブレグジット(イギリスのEU離脱)担当、ヒー・フェルホフスタット元ベルギー首相は午前11時20分すぎ、ジャン=クロード・ユンケル欧州委員長らと和やかに打ち合わせする写真をツイッターに投稿し、こうつぶやいた。

kimura20171206121001.jpg

「ユンケル委員長との会議で、私はイギリスで暮らすEU市民が不透明でコストがかかる煩わしい手続きをしなくて済むようにすべきだと主張した。EU市民の権利は保障されなければならない。彼らは善意でイギリスにやって来た。それに相応しい敬意を持って扱われる必要がある」

午後零時45分ごろ、ドナルド・トゥスクEU大統領(首脳会議の常任議長)もうれしさを隠しきれないようにツイートした。

「私が月曜日を好きな理由を知っていますか! ブレグジット交渉で北アイルランド国境問題が進展したことをアイルランドのレオ・バラッカー首相と電話で話したあと元気が出てきた。EU首脳会議に向けて(通商協議に入る前提となる)十分な進展に近づいている」

第1フェーズでクリアしなければならないハードルは400億~600億ユーロの離脱清算金とEU市民の権利保障、そして最後の最後まで残ったのがアイルランドと北アイルランドの国境問題だ。

アイルランドは自由に人やモノが行き来できる現状の維持を求め、テリーザ・メイ英首相を閣外から支える北アイルランドのプロテスタント系政党・民主統一党(DUP)はイギリスの他地域と同じ扱いになることを要求していた。

アイルランド独立後もイギリスに帰属した北アイルランドでは1968年以降、プロテスタント系住民とカトリック系住民が血で血を洗う抗争を繰り広げ、3600人が死亡した。98年のベルファスト合意で双方が協力して自治政府を確立した。

かつては英軍兵士が検問に立った国境を北アイルランドからアイルランドに越えても道路標識がマイルからメートルに変わるだけで、出入国管理局もなければ税関もない。気づかなくなった国境は北アイルランド和平の象徴なのだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story