コラム

【現地リポート】無差別テロ、それでも希望の光を灯し続けよう

2015年11月16日(月)17時10分

勇気をかき集め、犠牲者の追悼にくるパリ市民(共和国広場) Photo:Masato Kimura

 13日夜、パリで起きた過激派組織「イスラム国(IS)」による同時多発テロの死者は132人、負傷者は349人に達した。実行犯は7人が死亡、1人が逃走したとみられているが、全容はまだ分からない。フランスは15日、米軍と協力してシリア北部ラッカのIS拠点2カ所を空爆した。

 日曜日の15日、観光名所のエッフェル塔を訪れると、自動小銃で武装した兵士らが警戒に当たっていた。警察の特殊部隊もライフル銃を携えている。

 遊覧車の運転手アーナウドさん(32)は手持ち無沙汰に「テロにやられたパリ10、11区は若者がカフェに集う街です。観光客はパリに来るのを怖がるでしょう。クリスマスや来年夏の観光シーズンが心配です」と言う。

 研修のためパリに来ているトルコ人のイルカ・ウンさん(36)は妻と子供を1週間だけ呼び寄せ、エッフェル塔に連れてきた。「トルコでもISによるテロがあり、100人以上が死にました。テロリストに流れる武器の多くは米国やロシアがシリアの反政府勢力や政府軍などに供与したものです。テロを防ぐには、まず、こうした武器供与をやめるべきです」

 実行犯の1人が持っていたシリア旅券は10月3日にギリシャのレロス島に他の難民と一緒に上陸した「アハマド・アルモハマド」(25)のものであることが分かった。右派政権が誕生したポーランドの欧州担当相が「安全が確認された場合だけ、わが国は難民を受け入れるつもりだ」と発言するなど、割り当ての4500人受け入れに早速、疑問符がともった。

kimura151116-chart01.jpg

 ドイツでは難民受け入れを表明したメルケル首相の支持率が2011年12月以来という54%まで下がった。「イスラム過激派は受付センターで難民に接触している。すでに100件以上のケースを把握している」という連邦憲法擁護庁(BfV)の発表もあり、メルケルに対して国境を閉鎖せよという圧力が強まっている。

 ウンさんは「トルコは250万人の難民を受け入れています。確かに中には悪い人が交じっているかもしれませんが、国境閉鎖は解決策ではありません。アサド政権やロシアは反対していますが、シリア北部に安全地域を設けるのが一番良いと思います」と語る。

 80人を超える犠牲者を出したコンサートホールに残っていた指から実行犯の1人は仏中部の都市シャルトルで2012年まで暮らしていたフランス人、イスマイル・オマル・モステファイ容疑者(29)と分かった。同容疑者はアルジェリア出身の父とポルトガル出身の母を持ち、「近づきやすく、開放的な性格で、普通の子供だった」(近所の人の話)という。04~10年にかけ軽犯罪で8回有罪になり、その後、過激化したとみられている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story