コラム

韓国で今「女性徴兵論」が流行る理由

2021年06月28日(月)16時10分
コロナ禍でも徴兵検査を受ける韓国の若者たち(2020年3月)

コロナ禍でも徴兵検査を受ける韓国の若者たち(2020年3月) Heo Ran-REUTERS

<出生率の低下で、国防に要する人員が質量ともに不足しているから、というのは表向きの理由で、裏には若い男性の不満と、彼らに取り入ろうとする与野党の思惑がある>

最近韓国では「女性徴兵論」に対する議論が白熱している。今年の4月19日に青瓦台(大統領府)のホームページには「男性だけでなく、女性も兵役に就くべき」と訴える国民請願が掲示され、29万人以上が賛同した。請願の内容は次の通りである。


「出生率の低下と共に韓国軍は兵力の補充に大きな支障が生じています。その結果、男性の徴兵率は9割近くまで上昇しました※。過去に比べて徴兵率が高くなったことにより、兵役に不適切な人員さえ無理やりに徴兵の対象になってしまい、軍の全体的な質の悪化が懸念されるところです。これに対する対策として、女性も徴兵の対象に含め、より効率的に軍を構成すべきだと思います。すでに将校や下士官候補として女性を募集していることを考慮すると、女性の身体が軍の服務に適していないという理由で女性を兵役の対象にしないことは言い訳にしか聞こえません。

さらに、現在は過去の軍隊とは異なり、近代的で先進的な兵営文化が定着されていると存じております。女性側もこの点はすでに把握しており、多くのコミュニティを見た結果、過半数の女性が女性の徴兵について肯定的な考えを持っていることを確認しました。男女平等を追求し、女性の能力が男性に比べて決して劣ってはいないことを皆が認識している現代社会で、男性だけに兵役に服する義務を課すことは非常に後進的で女性を卑下する発想だと思います。女性は保護すべき存在ではなく、国を守ることができる頼もしい戦友になり得ます。したがって、政府には、女性のための徴兵制導入を検討していただくことを願います」

大統領府からの回答

青瓦台のホームページに投稿された請願の賛同者数が20万人を超えると、青瓦台は公式的な立場を表明する必要がある。そこで、青瓦台は6月18日、「女性徴兵制導入の検討要求」に関連する請願について、「女性徴兵制は兵力の補充に限った問題ではなく、様々な争点を含んでおり、国民の共感と社会的合意など十分な議論を経て慎重に決定すべき事案です。また、女性徴兵制が実際に導入されるためには軍の服務環境、男女平等な軍組織文化への改善などに関する総合的な研究と事前準備が十分に行われなければなりません」と立場を示した。

韓国には現在約60万人の軍人がおり、軍人の大部分は徴兵制に依存している。1953年に韓国戦争が休戦してから北朝鮮と対峙している韓国では、男性の兵役義務が憲法で定められ、すべての成人男性は、一定期間軍隊に所属し国防の義務を遂行しなければならない。つまり、韓国の男性は、満18歳で徴兵検査の対象者となり、19歳になる年に兵役判定(軍隊に行くか行かないか、どこで兵役の義務を遂行するか等の判定)検査を受ける。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:労災被害者の韓国大統領、産業現場での事故

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story