コラム

鬱憤社会、韓国:なぜ多くの韓国人、特に若者は鬱憤を感じることになったのか?

2019年11月11日(月)17時50分

年齢階層別「重度の鬱憤状態」である人の割合
uppun.png

資料)ソウル大学保健社会研究所フォーラム(2019年10月7日~11日)「韓国の鬱憤」

鬱憤を感じる理由は?

では、なぜ多くの韓国人、特に若者は鬱憤を感じているのだろうか。今回の研究チームの一員でもあるソウル大学のジャンドックジン教授は、「最近の若者は本人が持っている人的資本(能力)を発揮する機会が制限されることを前の世代より多く経験した。その結果、世の中は公正であるべきなのに公正ではない、前の世代には公正だと思った世の中が自分には公正ではないと考えながら鬱憤の数値が高まっている」と説明した。

一方、調査の責任者であるソウル大学のユミョンスン教授は、「若者は社会に参加しながら、就業などに挑戦をすることになる。しかしながら、その時、差別や排除、特恵や不正のような不公正を経験したり目撃したりしている。世の中が公正だと思えば問題なく生活できるのに, むしろそうした信念が脅かされ, 鬱憤の状態が悪化している」と説明した(「鬱憤を進める社会」ハンギョレ新聞2019年10月12日から引用)。

現在、韓国では高卒者の約7割が大学に進学し、在学中には就職の役に立ちそうなスペック積み(磨き?)に熱中する。スペック(SPEC)とは、Specificationの略語で、就業活動をする際に要求される大学の成績、海外語学研修、インターン勤務の経験、ボランティア活動、各種資格、TOEFLなど公認の語学能力証明などを意味する。

数年前までには大学名、大学成績、TOEIC成績、海外への語学研修経験、資格証といういわゆる5大スペックが就職するための必修条件であったが、最近は既存の5大スペックにボランティア活動、インターンシップの経験、受賞経歴を加えた8大スペックが基本になっているという。

しかし多くの若者は、世界一厳しいと言われる受験戦争を終え、大学に進学しても理想の仕事を見つけることが難しく、失業状態に置かれている、あるいは、パートやアルバイト等の非正規労働者として社会に足を踏み出している。問題は非正規職として労働市場に進入すると、なかなか正規職になることが難しいことだ。

多くの若者が食べていくのに精一杯で恋愛、結婚、出産(三放世代)を諦め、人間関係(就職)やマイホームを諦め(五放世代)、さらには夢や希望も諦めている(七放世代)。昔は頑張れば成功できると信じて多くの若者が頑張った。しかしながら、最近は生まれつきの不平等が拡大し、「どぶ川から龍」が出ることが難しくなった。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-イスラエル、近くラファに侵攻 国内メディアが

ビジネス

ECB、追加利下げするとは限らず=独連銀総裁

ビジネス

焦点:企業決算、日本株高再開の起爆剤か 割高感に厳

ワールド

人口減少は日本の最大の戦略課題=有識者の提言で林官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story