コラム

日鉄の「USスチール買収」は結局、成功だったのか? 完全子会社化、最終的な「勝者」は誰か

2025年07月04日(金)11時36分

中国で巨大企業アリババの「解体」に利用された黄金株

今回、トランプ政権が買収を承認したことで、アメリカ側が大きく譲歩したようにみえるが、現実はそうではない。その理由は、同社の重要決定事項に拒否権を行使できる、いわゆる「黄金株」をアメリカ政府が保有するからである。

黄金株というのは、1株の保有であっても、株主総会決議事項や取締役会決議事項に対する拒否権を持つ株式のことを指す。

黄金株は、中国において共産党との対立が表面化した巨大企業アリババ・グループを事実上、解体するために中国政府が用いた手段として知られており、この株式を政府に対して発行した場合には、取締役会での決定権は事実上、放棄したと見なされても仕方がない。


黄金株は企業のガバナンスを崩壊させるものであり、アメリカでは上場企業は発行することができない。今回、USスチールは完全買収によって日鉄の子会社となり、非上場化されることで付与が実現した。

同社はアメリカ政府と協定を結んでいるのだが、USスチールの独立取締役のうち1人をアメリカ政府が直接任命し、残る2人についても人事を拒否できるなど、経営に絶大な影響力を行使できる内容と報じられている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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