コラム

日本経済の常識だった「デフレ」と「ゼロ金利」が終わるとき...何が起きるのか?

2023年11月16日(木)19時08分
日本銀行

ISSEI KATO–REUTERS

<日銀は長期金利の変動について「1%超え」を容認した。日本経済の「前提」が崩れれば、環境は一変することになる>

日銀は今年10月31日に開催した金融政策決定会合で大規模緩和策の再修正を決めた。今回の修正もそれほど大きなものではないが、近い将来、本格的な政策転換が実施されることがほぼ確実になったという点で、日銀にとってはひとつのターニングポイントとなる。

これまで日銀は、長期金利の変動幅についてプラスマイナス0.5%をめどとしてきた。1%を超えそうな状況になった場合、国債を無制限に買い入れて金利上昇を阻止する措置(指し値オペ)を講じることで、事実上、金利上限を1%に設定していた。

今回の修正では、金利に関して1%を「めど」にするという表現に改められ、1%超えを容認した。今後は無制限の指し値オペは実施されないため、金利がいくらになるのかは日銀ではなく市場が決めることになる。

このところ、長期金利はジワジワと上昇を続けており、1%が目前という状況になっていた。こうした現実を考えると、今回の決定は市場動向を追認したにすぎず、思い切った政策転換ということにはならないが、これまで死守してきた1%の上限を放棄したことの意味は大きい。

市場関係者の多くは、今回の修正を受けて金利の上昇トレンドがほぼ確実になったとみており、来年前半にはマイナス金利の解除、そして来年後半にはゼロ金利の解除に踏み込むと予想している。

マイナス金利の解除が市場にもたらす影響はそれほど大きくないと予想されるが、ゼロ金利が解除された場合には、いよいよ短期金利が上昇を開始する可能性が高まってくる。もし短期金利が上がった場合、これまで低金利を前提に構築されていた日本経済の環境は一変することになるだろう。

住宅ローン支払額への影響が懸念される

今年4月の植田和男新総裁の就任以降、日銀は政策の微修正を行ってきた。だが大きな枠組みとしては大規模緩和策の継続という流れに変化はなく、そうであるが故に円安が進みやすい状況が続いてきた。

もし来年以降、ゼロ金利が解除されることになれば、本格的な政策転換のスタートであり、為替市場も大きく動く可能性が高い。今回の決定は本格的な政策転換の序章という位置付けであり、冒頭で今回の決定がターニングポイントになると言ったのはそういった意味からである。

短期金利が上がれば、これまでとは異なるインパクトが日本経済にもたらされる。住宅ローンを借りている人の多くは変動金利型だが、短期金利が上昇すると住宅ローンの基準金利である短期プライムレートも上昇する可能性があり、場合によってはローン支払額の増加が懸念される。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story