コラム

日本経済に付ける「即効薬」なし...最大の問題はコロナではない

2021年11月24日(水)17時56分
消費低迷(イラスト)

LEESTAT/ISTOCK

<7~9月期のGDPは大幅なマイナス成長だったが、緊急事態宣言による一時的な問題ではなく、必要となる政策も即効性のあるものではない>

内閣府は2021年11月15日、7~9月期のGDP速報値を発表した。物価の影響を考慮した実質成長率(季節調整済み)は前期比0.8%減、年率換算では3.0%減という大幅なマイナスとなった。

7~9月期については4回目の緊急事態宣言の発令期間とほぼ重なっていることから、場合によってはマイナス成長もあり得るというのが大方の予想だった。ところが実際はそれよりもはるかに悪い数字になっている。

この結果について緊急事態宣言によって消費が低迷したことが原因との声が聞かれるが、必ずしもそうとは言えない。個人消費は前期比マイナス1.1%と大きく落ち込んだものの、サービス消費はそれほど下がっておらず、むしろ耐久消費財の落ち込みが全体の足を引っ張った。

そもそも21年に入ってからはほとんどの期間において緊急事態宣言が発令されており、サービス消費は既に低迷した状態にある。GDP統計は前期比なので、7~9月期に限ってサービス消費が一段と減少する理由はなく、これが原因でマイナス成長に転落したわけではないのだ。

今回、耐久消費財の落ち込みが激しかったのは、パソコンなど巣籠もり需要が一巡したことや、半導体不足によって自動車販売が大きく減ったことが影響している。これまでは外食など、各種サービス消費の落ち込みを、巣籠もり需要がカバーし、全体のマイナスを補う構図だったが、その巣籠もり需要もとうとう剝落した可能性が高い。

大幅なマイナスは日本だけ

モノが売れなくなっているのは在庫の積み増しや設備投資の状況からも判断できる。民間企業が抱える在庫は大幅なプラスとなっており、生産はしたものの、思うようには売れなかったことを示唆している。巣籠もり需要がなくなり、在庫が積み上がっていることから、企業は生産計画を縮小した可能性が高く、実際、民間企業の設備投資は年率換算で14.4%も減った。

諸外国でも7~9月期のGDPは減速しているが、それでもアメリカは2.0%、欧州(ユーロ圏)は9.1%とプラスを維持しており、大幅なマイナスになったのは日本だけである。

日本は過去30年間、不景気と賃金の伸び悩みが続いており、家計はボロボロの状態である。一方、アメリカは長期にわたって好景気が続いていたので、経済の基礎体力には大きな違いがある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州移住に関心強める米国人、「トランプ氏

ビジネス

米中、貿易問題巡る初日協議終了 11日に再開

ワールド

インドとパキスタン、即時の完全停戦で合意 米などが

ワールド

ウクライナと欧州、12日から30日の対ロ停戦で合意
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story