最新記事

日本的経営

コロナ危機で、日本企業の意外な「打たれ強さ」が見えてきた

CORPORATE JAPAN AFTER COVID-19

2020年7月24日(金)12時19分
ピーター・タスカ(経済評論家)

bennymarty/ISTOCK

<「失われた20年」の教訓は無駄ではなかった。今の日本企業の踏ん張りには合格点を付けていい。本誌「コロナで変わる 日本的経営」特集より>

リーマン・ショックと違って、今回の危機は日本にとってそう悪くない危機だ。欧米諸国と比べ、死者数が桁違いに少ないばかりか、経済的な打撃もさほど深刻ではない。

2008年の世界金融危機を引き起こしたのはアメリカのサブプライムローン問題。日本にとってはいわば対岸の火事にすぎない危機だったが、それでもGDPはアメリカなど他の先進国を大幅に超える落ち込みぶりだった。

08年と今とでは何が違うのか。この間に日本企業は大きく変わった。日本経済は12年前と比べはるかにバランスが取れている。08年当時は大手の輸出企業は好調だったが、内需頼みの産業は伸び悩んでいた。

当時、企業経営を圧迫していた雇用・設備・債務の「3つの過剰」は今や影も形もない。設備投資のGDP比は90年代初めのバブル崩壊以降の最高を記録。旧態依然で悪名高い建設業でさえ、60年代初め以降では最高の利益率を誇るまでになった。

20200728issue_cover200.jpg

興味深いことに、今回の危機では、これまでさんざんたたかれてきた日本企業の体質が意外な強みを発揮している。「失われた20年」で痛い目に遭った日本企業はせっせと内部留保を増やしてきた。「物言う株主」が、そんなにカネがあるなら配当を増やすか、自社株買い戻しで株価を上げろと文句を言ったほどだ。

だが、コロナ禍で経済活動が急停止すると、社内にため込んだカネが頼りになった。内部留保がなければ、慌てて借金するしかなく、借金できなければ倒産するしかない。それが、ここ数カ月アメリカとイギリスの多くの企業がたどった運命だ。

企業同士のなれ合いや持たれ合いも日本企業の悪しき慣行と言われてきたが、危機のさなかでは役立った。例えば小売業者と不動産業者が同じグループの系列か、長年の付き合いがあったような場合、「痛み分け」として家賃の値下げなどの交渉がまとまりやすい。欧米の常識では、こうした事案は法廷に持ち込まれて、たいがい「勝者が全てを取る」方式で決着することになる。

日本企業の特徴は「反脆弱性」

従業員の扱いでも日本式が有効だった。今年3月に4.4%だったアメリカの失業率は5月には13.3に急増したが、同時期に日本は2.5%から2.9%に増えただけだ。日本式では社会の混乱をできる限り抑え、事業の継続性を守ろうとする。一方アメリカ式は変わり身の早さと短期の収益性を重視する。

元トレーダーのナシーム・ニコラス・タレブによれば、日本企業の特徴は「反脆弱性」だ。つまり壊滅的な打撃をもたらし得る予想外のショックに強い耐性を持つ。その証拠に、08年の韓国銀行の調査によると、創業200年を超える世界の長寿企業の過半数、56%は日本企業だ。

というわけで、今回の危機では日本企業はまずまずよくやった。だが、慢心してはいけない。この10年余り、企業統治を改善し、新たな発想を経営に取り入れてきた成果がここで出たのだ。油断して後戻りしたら元も子もない。

【関連記事】コロナ危機を乗り切れる? 日本企業の成長を妨げる「7大問題」とは
【関連記事】日本的経営の「永遠の課題」を克服すれば、経済復活への道が開ける

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中