最新記事

日本的経営

コロナ危機で、日本企業の意外な「打たれ強さ」が見えてきた

CORPORATE JAPAN AFTER COVID-19

2020年7月24日(金)12時19分
ピーター・タスカ(経済評論家)

企業が業績を伸ばし、社会に貢献するには、刻一刻と変化していくビジネス環境に適応しなければならない。コロナ禍でも根底的な流れは変わらない。日本の人手不足は構造的な要因によるもので、一時的に解消しても長期的には変わらない。企業は人材確保のために賃金引き上げや労働条件の改善を迫られる。政府が掲げる「働き方改革」に地道に取り組み、フレックスタイム制の導入など女性や外国人、転職者や高齢者を受け入れる体制を整える必要がある。

ここ数年、日本企業と株主の関係は大きく変わった。今では大半の上場企業がIR(インベスター・リレーションズの略。投資家向けの広報活動のこと)専門の部署を設置している。

これは世界的な傾向だが、投資家、特に機関投資家は社会的な圧力に押されて、「ESG(環境・社会・企業統治)投資」、つまり企業の環境への取り組みなどに目配りした投資を行うようになっている。

市場の「クジラ」と呼ばれるほど、巨額の資金を運用する日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もESG投資を行っている。日本企業も今後ますますESGに配慮した経営が求められることになる。物言う株主(その一部は外国人だ)ときちんと対話できる公正さや透明性の確保にも努めなければならない。

次の危機に備えて力を付けろ

一方で、巨大なグループ企業は手を広げ過ぎた事業の再編・再構成を迫られるだろう。主力の事業を見直し、業績不振の子会社や製造ラインを潔く手放す覚悟も必要になる。

この危機は世界中の企業経営者に教訓をもたらした。例えば、効率的で安上がりに見えるサプライチェーンには潜在的なリスクがあること。そして、いざというときにすぐさまリモートワークに移行できる体制がリスク管理に不可欠なこと(日本の場合はデジタル印鑑も必要だろう)。

もっとも、危機対応のために、あるいは部分的に、リモートワークを導入するのはいいとしても、全面的な移行は考えものだ。チームワークの大切さを学ぶこと、上司が部下に仕事を教えること、ランチを食べたりお茶を飲みながらアイデアを交換したり、「飲みニケーション」で業界の情報を得ること。これらはオンライン会議では得られない体験で、組織がうまく機能するためには欠かせないコミュニケーションだ。

日本企業の改善の多くは、12年に第2次安倍政権が発足してからもたらされた。行き過ぎた円高の是正、企業統治の改善、GPIFの運用見直し、外国人労働者の受け入れ拡大などは安倍政権の実績とみていい。

安倍一強時代が終われば、官僚が権力の空白を埋め、政治的な停滞に逆戻りしかねない。ゾンビ企業が政府に圧力をかけて、生き残りを図るような事態は要注意だ。

今のところ「日本株式会社」の危機対応には合格点を付けていい。さらに踏ん張り続けて、収束後に大きく成長できる力を蓄えること。それができたら、次の世界的な危機にも十分耐えられる。忘れてはいけない。次の危機は必ずやって来る。

<2020年7月28日号「コロナで変わる 日本的経営」特集より>

【関連記事】【IT企業幹部・厚切りジェイソン】アメリカの営業マンが外回りせずに2億円稼ぐ理由

20200728issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アフガン北部でM6.3の地震、20人死亡・数百人負

ワールド

米国防長官が板門店訪問、米韓同盟の強さ象徴と韓国国

ビジネス

仏製造業PMI、10月改定48.8 需要低迷続く

ビジネス

英製造業PMI、10月49.7に改善 ジャガー生産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中