コラム

A-FIVEだけじゃない、安倍政権が推進する官民ファンドが失敗する当然すぎる理由

2019年12月24日(火)11時00分

産業革新機構が出資したJDIは経営危機に陥っている KIM KYUNG HOONーREUTERS

<日本は政府主導のイノベーション事業投資を強化しているが、これは実質的に負けが確定したゲームと言って良い>

政府系ファンドの産業革新機構(現INCJ)が出資した国策企業ジャパンディスプレイ(JDI)が極めて深刻な経営危機に陥っている。資本主義社会において政府が民間よりも優れたリスク投資を実現するのはほぼ不可能というのは、全世界的にもコンセンサスが得られている話だが、日本はむしろ政府主導の投資を強化している状況だ。

JDIは、日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合した企業で、産業革新機構が設立時に2000億円を投じている。近年、日本政府は国家主導で革新的な企業を育成する政策を重視しており、産業革新機構(産業革新投資機構に改組)をはじめさまざまな政府系ファンドが作られた(政府主導というイメージを薄めるため政府は官民ファンドと呼んでいるが、実質的には国営ファンドである)。

だが、これら政府系ファンドの成果は惨憺たるものだ。JDIはこれまで5期連続の赤字で、1000億円以上の債務超過となっており、経営再建のメドは全く立っていない。産業革新機構は、JDIの上場時に株式の一部を売却して利益を確定しているが、上場後、株価は下落の一途をたどり、現在では10分の1以下になった。事実上、一般投資家に損失を付け替えた状況にあることを考えると、運用に成功したとはいえないだろう。

アベノミクス以降、各省は12の政府系ファンドを作ったが、このうち4ファンドの累積損失が367億円に達している。特にひどいのが経済産業省の海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)と農林水産省の農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)で損失額はそれぞれ179億円と92億円である。

利益を出している産業革新投資機構についても、運営方針や報酬をめぐって民間出身の経営陣が総退陣するなど、経営はガタガタの状況である。農林漁業成長産業化支援機構に関してはファンドの閉鎖も検討されているという(農水省は20日、同ファンドの廃止を正式に発表した)。

高い専門性と覚悟が必要

こうした惨状については、投資ビジネスをよく知る人の間では、当然の結果であるとの受け止め方がほとんどである。その理由は、政府が民間よりも優れた目利きの能力を発揮し、イノベーティブな企業への投資を実現するのは難しいというのが業界の一致した見方だからである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中

ビジネス

アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待

ビジネス

英CPI、11月+3.2%に鈍化 市場は18日の利

ワールド

IR整備地域の追加申請、27年に受け付けへ=観光庁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story