コラム

ゼロから分かる安倍政権の統計不正問題

2019年03月06日(水)17時30分
ゼロから分かる安倍政権の統計不正問題

統計不正の本質が分からないままでは、この問題の重大さを理解できない Issei Kato-REUTERS

<どんな不正が、なぜ起こったのか、どこが問題なのか。複雑怪奇な厚生労働省の統計不正問題を解説する>

厚生労働省の統計不正をめぐって国会での論戦が続いている。野党はこの問題を徹底追及したいところだが、世論はあまり盛り上がっていない。

統計不正は国家の基盤を揺るがす大問題であり、多くの人がその重大性に気付いているはずだが、専門性が高く「よく分からない」のが正直なところだろう。不正の中身が分からなければ、それを評価できないのは当然である。本稿では統計不正の中身について可能な限り平易に解説したい。

今回、不正が発覚したのは厚生労働省の「毎月勤労統計調査」である。これは賃金や労働時間に関する統計で、調査結果はGDPの算出にも用いられるなど、基幹統計の1つに位置付けられている。アベノミクスに関する争点の1つは雇用と賃金なので、この統計はまさにアベノミクスの主役といってよい。そうであるからこそ「忖度」の有無が問われているともいえる。

勝手にサンプル調査に切り替えた

不正の根幹部分は、調査対象となっている従業員500人以上の事業所について、全数調査すべきところを一部で勝手にサンプル調査に切り替え、しかもデータを補正せずに放置したことである。

サンプル調査そのものは統計の世界では一般的に行われる手法であり、サンプル調査を行ったからといって、それだけでデータがおかしくなるわけではない。

今回のケースでは東京都における500人以上の事業所は約1500カ所だったが、実際には500カ所しか調査していなかった。ここで得られた数字に約3を掛けるという補正作業を行えば、1500カ所に近い数字が得られる。

補正作業を忘れていた

毎月勤労統計調査については、全てに全数調査が義務付けられているので、サンプル調査に変更した段階でルール違反なのだが、数字がおかしくなったのはサンプル調査そのものが原因ではなく、この数字の補正作業を忘れていたからである。

1500カ所分の数字が必要であるにもかかわらず、500カ所分の数字しかなかったので、東京都における賃金総額が実際よりも小さくなり、結果として全国の賃金総額も減ってしまった。現実の補正作業はシステム上で行われるので、外注しているシステム会社への業務連絡を怠ったのが実態と考えられる。

2018年以降のデータだけを訂正した

このミスは2004年からずっと続いており、十数年間、賃金が低く算出されていたことになるが、本当の問題はここからである。

作業ミスが発覚した場合、本来であれば、2004年までさかのぼって全てのデータを訂正しなければならない。ところが厚労省はこうした訂正作業を行わず、どういうわけか2018年以降のデータだけを訂正するという意味不明の対応を行い、その結果、2018年から急激に賃金が上昇したように見えてしまった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

MAGAZINE

特集:日本と韓国 悪いのはどちらか

2019-9・24号(9/18発売)

終わりなき争いを続ける日本と韓国── 泥沼の関係に陥った本当の原因と「出口」を考える

人気ランキング

  • 1

    サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

  • 2

    韓国航空会社の受難......ウォン安、原油高騰に「ボイコットジャパン」が追い打ち

  • 3

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 4

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 5

    香港対応に見る習近平政権のだらしなさ

  • 6

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 7

    文在寅が「タマネギ男」の検察改革に固執する理由

  • 8

    文在寅「超側近」チョ・グクの疑惑がここまで韓国人…

  • 9

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配…

  • 10

    韓国で広がる東京五輪不参加を求める声、それを牽制…

  • 1

    サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

  • 2

    韓国航空会社の受難......ウォン安、原油高騰に「ボイコットジャパン」が追い打ち

  • 3

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 4

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャ…

  • 5

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 6

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 7

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 8

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」…

  • 9

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 10

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 1

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 2

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 3

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 4

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 6

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 7

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 8

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 9

    サウジ原油施設攻撃で世界は変わる

  • 10

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!