コラム

ゼロから分かる安倍政権の統計不正問題

2019年03月06日(水)17時30分

「現実に近い数字になった」では済まない

この対応が、賃金がなかなか上がらないことにいら立ちを強めていた安倍政権への忖度だと批判されている。2018年以降の数字を訂正したことで、同年以降の賃金総額が増加し、より現実に近い数字になったとの見方もできる。だが多くの国民にとって重要なのは、勤労者全員が受け取った賃金総額がいくらかではなく、賃金が前年より上がったのか下がったのかである。

これに加えて統計には連続性が不可欠であり、途中で基準が変わることはあってはならない。もしこの訂正がなければ2018年の賃金は前年比で下がっていた可能性が高く、景気に対する国民の認識は違ったものになっていただろう。

整理すると、厚労省は、①全数調査すべき調査をサンプル調査に勝手に切り替える、②サンプル調査の場合に必要となる補正作業を忘れる、③全データを訂正せず2018年からの訂正のみにとどめる、④一連の対応について外部から指摘されるまで明らかにしない、という4つの不正を行ったことになる。

忖度した可能性は高い

同省が2018年以降だけの訂正にとどめた本当の理由については明確でない。意図的にこうした訂正を行った可能性もあるし、データの管理がずさんで、2004年までさかのぼった訂正ができなかったことも考えられる。

ただ、2018年のデータから調査対象の事業所を大幅に入れ替えており、これも賃金を大きく上昇させる要因となった。調査対象の事業所入れ替えも定期的に必要な措置ではあるが、ミスが発覚し訂正するタイミングで実施するのは不適切である。一連の対応を総合的に考えると、政権の意向をある程度、反映させた可能性は高いとみてよいだろう。

なぜこのように推測できるかというと、霞が関では不正にならないギリギリのところで、統計の数字を政権が望む形に微修正することはよくある話だからである。一方で、中央官庁の職員には公務員としてのプライドもあるので、修正はあくまでも職業倫理の範囲内にとどめるのが暗黙のルールとなっていた。

今回の不正はこれを著しく逸脱しており、統計データとしての連続性を消失させるなど、従来では考えられない対応を行っている。忖度の度合いはともかくとして、同省の組織劣化がかなり進んでいるのは間違いない。

他の統計でも不正が明るみに

今回の不正発覚をきっかけに、同省の賃金構造基本統計調査や、あるいは総務省の小売物価統計調査など他の統計でも不正が明るみに出ており、問題をさらに複雑にしている。

賃金構造基本統計調査は調査員による調査を実施すべきところを郵送に切り替えていた。小売物価統計調査については、調査員が調査を怠り、過去のデータを提出していたことが明らかとなっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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