コラム

石破ビジョンで日本経済はどうなる?

2018年09月04日(火)12時45分

地方が独自に稼げるようにすれば日本経済は底上げされる

完璧な現状認識を前提に、どのような具体策が打ち出されるのか非常に期待されるところだったが、石破ビジョンで提唱された「ポストアベノミクスの展開」の内容を見ると、少しばかり雲行きが怪しくなってくる。「デフレに後戻りしないマクロ経済政策」「財政規律への配慮」といった文言が並んでいるが、核となる政策が提示されていないという印象が拭えない。

政治家は実務家ではないので、公務員やコンサルタントのように事細かに政策の具体例を説明する必要はない。総裁選というのは「まつりごと」であり、選挙の結果が出る前から、細かい政策にコミットするのは得策ではないということもよく理解できる。

しかしながら、多少、抽象的でも構わないので、一本スジの通った新しい経済政策を示して欲しいというのは、多くの有権者が期待していたことであり、こうした道筋が示されなかったのは少々残念だ。

金融緩和と財政出動というカンフル剤を使える時間は限られており、その間に、本質的な改革を行う必要があるという部分については、明確なメッセージが伝わってくる。だが具体的な施策として大きく取り上げられているのは、石破氏の得意分野でもあった地方創生のみであった。

著書では、日本は都市国家とは異なり、自然条件に恵まれた地方都市がたくさんあると主張している。各地方がそれぞれ独自の方向性を明確にし、それぞれがしっかり稼げる仕組みを作れば、日本経済は一気に底上げされるというメカニズムを想定しているようである。

地方創生が重要な政策であることに異論を挟む人はほとんどいないだろう。だが地方創生がそのまま、現状を打開する経済政策になるのかという点については疑問視する人が多いのではないだろうか。

量的緩和策の修正は正しい行為だとしても株価を下落させる

こうした状況を踏まえた上で、もし石破氏が首相になった場合、どのような経済政策が実施されるのか、現時点で得られる情報を元にシミュレーションしてみた。

石破氏は量的緩和策や財政出動について、カンフル剤であると明確に位置付けているので、半永久的にこの政策を続けるという選択肢はないだろう。日銀はすでに量的緩和策の出口を模索しているが、石破氏が首相になれば、何らかの形で軌道修正が行われる可能性が高い。

際限のない貨幣供給はストップすることになるので、予想外のインフレが発生するリスクは軽減できるかもしれない。だが現状の日本株の水準は、安倍政権が量的緩和策に対して、引くに引けない状況となっていることが大前提となっている。

量的緩和策の見直しがいいことなのか悪いことなのかという判断とは別に、軌道修正が行われた場合、株価は下落する(あるいは伸び悩む)可能性が高く、為替も一時的には円高に振れることになるだろう。そうなると輸出企業の業績も悪化し、短期的には日本経済に逆風となる可能性が高い。

こうした状態に陥ると、日本経済の現状においては真っ先に地方が影響を受けることになる。石破氏は地方重視なので、地方が一気に疲弊するという状況を放置できないだろう。そうなってくると、年月を限定した上で国債を発行し、地方を中心に財政支援を行うという施策が現実味を帯びてくる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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