コラム

外国人労働者の受け入れ拡大策は、移民政策として実施すべき

2018年06月26日(火)15時40分

写真はイメージです。 graphixel-iStock

<今月15日に閣議決定された外国人労働者の受け入れ拡大には、わざわざ「移民政策とは異なる」という文言が。2つのテーマがあたかも無関係であるような考えこそが、問題を悪化させる...>

政府は今後、50万人以上の外国人労働者を受け入れる方針を固めた。移民政策ではないと説明しているが、外国人労働者の受け入れと移民を切り離して考えることは不可能である。日本は事実上、移民政策へ舵を切ったと認識すべきだろう。

企業の現場では外国人がいないと業務が回らない

日本はこれまで、外国人労働者の受け入れについては「高度な専門知識を持つ人材に限る」としてきた。だが、これは建前に過ぎず、企業の最前線では単純労働に従事する外国人がいないと業務が回らないというのが現実である。実際、日本での就労を希望する外国人の多くが単純労働者といってよい。

政府は矛盾した状況に対応するため、技能実習という制度を設け、あくまでも実習という名目で単純労働に従事する外国人を受け入れてきた。

しかし、この技能実習制度をめぐっては賃金の未払いや劣悪な労働環境など、海外から奴隷労働であるとして批判されるケースも出てきており、場当たり的な対応はもはや限界に来ている。

法務省によると2017年末時点で日本に滞在する外国人は256万人となっており、このうち27万人が技能実習である。ちなみに2015年に制度がスタートした高度専門職に該当する人は7700人しかいない。また留学生が31万人ほどいるが、この中の一部は単純労働に従事している可能性が高い。

過去5年間で技能実習による滞在者は1.8倍に、留学は1.7倍に増えている。外国人全体の伸びは1.3倍なので、技能実習と留学の伸びが大きいことが分かる。

国内の労働市場は慢性的な人手不足が続いており、外食産業やコンビニなどでは、外国人労働者に頼らないと店舗運営ができないのはもはや常識となっている。少なくとも経済的には、労働者の受け入れ拡大は必至の状況といってよい。

政府は6月15日に閣議決定した経済財政運営の基本方針(いわゆる骨太の方針)に、外国人労働者の受け入れ拡大を盛り込んだ。今後、5つの分野で50万人以上の労働者を受け入れる方針だが、今回、政府が重い腰を上げたのは、産業界からの強い要請があったからだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、南ア・印・ブラジル首脳と相次ぎ電話協議

ワールド

中欧向けロシア原油が輸送停止、ウクライナが輸送管攻

ワールド

トランプ氏「紛争止めるため、追及はせず」、ゼレンス

ワールド

中国首相、消費促進と住宅市場の安定を強調 経済成長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    あまりの猛暑に英国紳士も「スーツは自殺行為」...男…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story