コラム

東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

2017年01月24日(火)16時29分

Toru Hanai-REUTERS

<米原子力事業をめぐる巨額の損失を発表し、債務超過に転落する見通しの東芝。なぜ失敗する確率の高いプロジェクトに投資し続けてしまったのか。解体に向けたカウントダウンが始まった>

 東芝の米原子力事業をめぐる損失額が7000億円規模に達する可能性が高くなってきた。同社の2016年9月時点における自己資本はわずか3600億円しかなく、この金額が正しければ同社は債務超過に転落する。半導体事業を売却することで債務超過を回避するとの報道も出ているが、半導体事業を売却してしまうと、もはや満身創痍の原子力部門しか残らない。総合電機メーカーであった東芝は事実上、解体に向けて動き始めたことになる。

米原子力事業の不振はかなり前から指摘されていた

 東芝は昨年12月27日、米国の原発事業において数千億円の損失が発生する可能性があると発表した。損失が発生するのは、米子会社のウェスチングハウス(WH)社が2015年12月に買収したCB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)。東芝の説明によると、資産価値を精査したところ想定よりも大幅に価値が下回ったことが原因だという。

 しかしながら、資産価格を精査したところ想定よりも価値が下がったという説明は額面通りには受け取らない方がよいだろう。米国の原子力部門において多額の損失が発生していることは、以前から指摘されていたからである。

 東芝は2006年に54億ドル(当時のレートで約6400億円)を投じてWHを傘下に収めた。東芝はWHの売上高を10年で2.5倍にするという強気の見通しを立てており、買収価格もこの事業計画をベースに算定された。だが、WHの事業は予定通りには進まなかった。東芝は減損処理の必要はないとの立場を崩していなかったが、WHが2度にわたって損失処理を行ったことが報じられ、2016年4月になってようやく2600億円の減損を行うと発表している。

【参考記事】東芝不正会計の本質は、「国策」原発事業の巨額損失隠し

 だが、WHが抱える損失はそれだけでは済まなかった。WHは業績を拡大するため、米国の原子力サービス企業S&Wと提携し、原発建設のプロジェクトを積極的に進めてきたが、プロジェクトがうまくいかずS&Wが巨額の損失を抱えてしまったのである。東芝グループとS&Wの親会社であるCB&Iは損失処理をめぐって対立し、一部は訴訟にまで発展する状況となった。最終的に、東芝が損失を抱えたS&Wを引き取る形で紛争解決が図られたが、今回発生する損失は、この案件に関連したものである。

 東芝は、最終的なリスクの多くを東芝が負うという、無理な形で米国の原子力事業を進めており、そのツケが回ってきたといってもよいだろう。

「コストが高い」米国の潮流は完全に変わっていた

 東芝は、失敗する確率の高いプロジェクトにわざわざ巨額の投資を続けてしまったわけだが、なぜこのような事態に陥ってしまったのだろうか。直接のきっかけは福島第一原発の事故である。

 日本では事故後も原発を再稼働することが大前提となっているが、米国の状況は大きく異なる。もともと米国では兵器用の原子力開発と発電を中心とした民間の原子力開発は完全に分離しており、民間の原子力開発は、純粋に経済合理性に基づいて運営されている。原発事故後、米当局は安全規制を強化、原子力発電のトータルコストは高いという認識が広がり、新規の原発建設が急速に萎んできたのである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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