最新記事

コンプライアンス

東芝不正会計の本質は、「国策」原発事業の巨額損失隠し

監査法人まで巻き込んで第三者委員会スキームを「壮大な茶番」に貶めた東芝の罪

2016年4月27日(水)16時00分
郷原信郎(弁護士)

変わらぬ体質 先月、2019年までの中期計画を発表した東芝の室町正志社長 Thomas Peter-REUTERS

 昨年、東芝の巨額の不正会計が発覚した。日本を代表する巨大企業のイメージは地に堕ち、回復困難なダメージを被った。

 しかし東芝がこのような事態に追い込まれたのは、不正会計の中身だけが理由ではない。東芝経営陣が、問題の本質を隠ぺいしようとし、世の中に対してあまりに欺瞞的な対応をとったことが、存亡の危機に瀕する事態を招いた最大の原因である。

 昨年7月、第三者委員会報告書が公表され、その翌日に、歴代3社長の辞任が公表された。新聞、テレビ等の多くのメディアは、「不正会計を主導した経営トップを厳しく断罪する第三者委員会報告書」を評価し、それによって「幕引き」の雰囲気が醸成された。

【参考記事】三菱自、燃費不正の先行き見えず、グループからの支援は難航も

 しかし筆者は、その報告書の内容について、①会計不正の問題なのに、不正の認識の根拠となる監査法人による会計監査の問題が調査委嘱の対象外とされていること、②調査の対象が、「損失先送り」という損益計算書(P/L)に関するものに限られ、アメリカの原発子会社ウェスチングハウスの巨額の「のれん代」(編注:ブランドの資産価値を決算に計上すること)の償却の要否等、会社の実質的な財務基盤に関わる貸借対照表(B/S)項目が対象から除外されていること、などに重大な疑問があり、第三者委の調査は、意図的に問題の本質から目を背けようとしているとしか思えないと指摘してきた。

 そして昨年11月に、誌面で内部告発を呼びかけるという異例の対応まで行って、東芝不正会計の徹底追及を続けていた日経ビジネスが、東芝が大半の株式を取得して子会社にしていたウェスチングハウスで、合計1600億円の巨額減損が発生していたことを報じた。2006年に同社を買収した際の東芝の目論見は、2011年の福島の原発事故の世界的影響で大きく外れていたが、東芝はそれまで、原子力事業については一貫して「順調だ」と説明してきた。そこに大きな偽りがあったことが明らかになった。

 日経ビジネスのスクープ報道はさらに、第三者委発足前に、当時の田中久雄社長、室町正志会長(現社長)ら東芝執行部が、ウェスチングハウスの減損問題を、委員会への調査委嘱事項から外すことを画策し、その意向が、東芝の顧問法律事務所から、第三者委の委員に伝えられ、原発事業をめぐる問題が第三者委員会の調査対象から除外されたことを明らかにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査

ワールド

豪家計支出、5月は前月比+0.9% 消費回復

ワールド

常に必要な連絡体制を保持し協議進める=参院選中の日

ワールド

中国、太平洋島しょ地域で基地建設望まず 在フィジー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中