コラム

エルサレム移転を前に報じられる驚愕「トランプ和平案」の中身

2018年03月19日(月)11時22分

トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都と認定した演説の中で、「今回の決定は、イスラエルとパレスチナの和平交渉を永続的な合意に向けて前進させるための一歩だ」と語った。ツイッターでも「私は和平交渉で最も難しい問題であるエルサレムを交渉のテーブルから外した」と書いている。

サウジでムハンマド皇太子から米国案を聞かされていたアッバス議長にとっては、エルサレムの決定は和平案提示に向けて外堀を埋められたと感じたことだろう。

トランプ氏の決定を受けて、ハマスの指導者イスマイル・ハニヤ氏が第3次インティファーダ(民衆蜂起)を訴えたのに対して、アッバス議長はひたすら「米国はもはや中東和平の仲介者ではない」と訴え続けてきた。アッバス議長の頭の中にあったのは、不利な和平案を押し付けられることをいかに阻止するかだっただろう。

さらにエルサレム問題では米国の動きに真っ先に反対しそうなサウジアラビアが抑制した対応に終始し、同国の次期国王と目されるムハンマド皇太子がトランプ和平案を後押しして圧力をかけてくることもアッバス議長にとっては悩ましいところだろう。

「世紀の合意案」は「世紀の屈辱」と拒否姿勢

トランプ大統領が「世紀の合意案」と呼ぶ和平提案についての報道は様々に出ている。3月5日にイスラエル紙ハアレツは「パレスチナ自治政府は米国が数週間のうちに和平案を出してくると見ている」と報じた。その和平案については、パレスチナ国家はヨルダン川西岸の約40%で、逆にイスラエルが10~15%を併合し、残りの地域についてもイスラエル軍が治安維持の責任を持つという見方をしている。

西岸はA、B、Cの3地区に分けられるが、パレスチナ自治政府が治安も行政も統治するA地区は西岸の18%しかない。自治政府が行政を行うが、治安についてはパレスチナ警察とイスラエル軍が共同で管理しているB地区が21%。残る61%はイスラエルが治安も行政も支配するC地区であり、そこには125のユダヤ人入植地があり、38万人以上の入植者が住んでいる。

西岸の40%というのは、ほぼA地区とB地区を合わせた面積ということである。C地区にあるユダヤ人入植地のほとんどが併合され、残りの地域もイスラエルの支配下にあるということになる。

1月中旬、アッバス議長は西岸のラマラで開かれた自ら主導する政治組織ファタハの中央委員会で演説し、「トランプ大統領の和平案は『世紀のびんた』だ」と述べて、拒否する姿勢を明らかにした。アラビア語で「合意案」と「びんた」の音が似ていることから、トランプ大統領がいう「世紀の合意案」はパレスチナにとっては「世紀の屈辱」だということを強調したのである。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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