コラム

戦火のアレッポから届く現代版「アンネの日記」

2016年12月01日(木)17時54分

 母親のファテマのツイートには、暮らしや地域の様子を伝えるものが多く、悪化する状況を知らせる報告となっている。

「小さな子供たちが通りで食べ物を探しています。ファテマ」(9月30日)
「爆弾が午前0時から5時まで降り続きました。私たちは夜の間ずっと寝ていません。朝になってまた9時から(爆撃が)始まり、いまも続いています。ファテマ」(10月1日)
「この町の主要な病院が爆撃されました。世界よ、私たちはどこに行けばいいの? ファテマ」(10月1日)
「アレッポ病院は修復されているところを、今日また爆撃されました。世界よ、私の子供たちがけがをしたら、どこに行けばいいのでしょう?」(10月3日)
「人々は爆撃を恐れて、病院に行くことを避けています」(同)
「ロシア軍機が落としたビラには明日が最後の機会だとあります。もし、明日、私たちが町を出なければ、私たちは生きるか、死ぬか分かりません。私たちのために祈ってください。」(11月3日)
「これがシリア政府から出た文書です。大規模な戦争を開始するまで24時間しかないといいます」(11月13日)
「こんにちは。食料が本当になくなりそうです。買おうと思っても、町には食料はありません」(同)

 バナのツイートには微笑みたくなるようなものもある。

「こんにちは。私は今日ハッピーです。なぜって? 想像してみて。あなたはどうですか? いま、何をしているの?」(10月27日)

 このツイートにはバナの写真がついていて、手に小さな白いものを持っている。次のツイートで種明かしがされる。「歯の妖精はここでは爆撃を恐れて、穴に逃げてしまいます。戦争が終わったら、やってくる。バナ」(同)。前のツイートの小さな白いものは、抜けた乳歯というのが答え。「歯の妖精(The tooth fairy)」は、子供が抜けた歯を枕の下に置いておくと、コインまたはプレゼントに交換してくれるという西洋の言い伝えである。

 バナの子供らしいツイートは、日々の爆撃の叫びにかき消されそうだ。

「人々はハエのように死んでいます。次にどうなるか分かりません。爆弾はちょうど雨のように降ってきます」(9月24日)
「私の3歳の弟ヌールが、なぜビルが崩れたの?と私に聞きました。私はどう答えていいかわかりません」(9月29日)
「爆弾が降ってきます。私の弟のムハンマドが泣いています。もし弟が死ぬなら、私が死んだ方がましです。バナ」(10月21日)
「こんにちは世界。私は幸運です。夜じゅう爆弾の雨が続いた後なのに、生きているのですから。バナ」(10月17日)
「私は泣いています。これは今夜、爆撃で死んだ私の友達です。泣き止むことはできません。バナ」(11月24日)

次の瞬間にも死んでしまうかもしれない少女のつぶやき

 私がコラムで取り上げた市民ジャーナリスト、ハディ・アブドラは今年11月、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」が主催する「RSF-TV5モンド報道の自由賞」のジャーナリスト部門で受賞した(参考:危険地報道を考えるジャーナリストの会HP「シリアの市民ジャーナリスト、ハディ・アブドラ氏に『報道の自由』賞」

 彼について取りあげた時、「シリア内戦は歴史上初めて、紛争の真っただ中にある普通のシリア人が市民ジャーナリストとなって紛争の事態を現場から伝えている」と書いた。バナのツイートの中でも、ファテマが「ハディ・アブドラ。アレッポのことを報じてくれて、ありがとう」(10月1日)とツイートしているものがある。世界に対してだけではなく、包囲攻撃の中にあるアレッポ東部の住民たちにとっても、現場に駆け付けるハディのリポートが重要な情報源になっていることが分かる。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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