コラム

パリ同時多発テロを戦争へと誘導する未確認情報の不気味

2015年11月18日(水)15時42分

「IS空爆」に向かう政治的意図と未確認情報

 アバウード容疑者がシリア東部のIS支配地にいるならば、パリでの作戦を遠隔操作で立案したり、指揮をとったりすることは、全く不可能だろう。ブリュッセルなり、フランスにいて、実際に作戦を立案し、自爆者をリクルートし、当日の手配をとるなど、実質的な指揮をとったというなら、まさに「首謀者」だが、今年1月に仲間と武器とアジトを準備したために、警官に踏み込まれて逃げた若者に、そのような経験と能力があるだろうか。

 もし、アバウード容疑者がパリに来て実際に動いたにしろ、IS支配地にいる彼の指令を受けてフランスにある組織が動いたにしろ、重要なのは、イスラム国の指令によるテロ作戦というよりも、フランスとその周辺国を含めたイスラム過激派組織による大規模なテロ作戦が実行されたという事実である。「イスラム国の指令」はあったとしても、二次的な要素である。

 どうも、この間の数日の報道や情報の流れを見ていると、「IS空爆」という戦争を激化させようとする政治的な意図のもとに、未確認情報が飛び出し、それによって世論操作が行われ、政治が動いているように思えてならない。その陰で、フランスや欧州の足下で重大な危機が広がっていくのではないかという危惧を抱かざるをえないのである。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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